第11話 引っ越そう
「さて……これからのことなんだけど。この場所にいたら危険だと僕は思う」
「そうね。場所が知られている以上、いつまたグレインのような野蛮人が現れるかわからないし」
グレインを縛り上げて床に転がしたまま、アルカナとモーガンの二人は手短に話し合った。
こんな奥まった場所で戦闘力を持たない二人がいては、襲ってくださいと言っているようなものだ。
「この店を捨てて、別のもっと人目のある場所に店を借りようと思うんだ」
「それがいいわね」
この数週間で稼いだ金で店を借りるくらいなら出来る。足りなければアルカナの貯蓄から出したって構わない。長年冒険者をやっていたアルカナには、割と蓄えがあった。
「よし、そうと決まれば早速引っ越し準備よ!」
二人がかりでアルカナの展開した亜空間に全て物を収納して、空っぽになった店にはグレインだけを転がしておく。
手ぶらで表通りを歩く。アルカナはまだ身バレの可能性が怖いので、フード付きの外套を着て姿を隠していた。何より頭から飛びたしている灰色の耳が、アルカナをアルカナたらしめている。これを隠さないと一発でアルカナだと気づかれてしまうだろう。
通りを歩きながらアルカナはモーガンに話しかけた。
「どんな場所がいいと思う?」
「そうだなぁ……表通りは激戦区だし家賃も高いから、住宅街に差し掛かる少し外れた場所がいいんじゃないか。そこでも路地裏に比べれば圧倒的に人目は多い訳だし」
「なるほどね」
「まずは商人ギルドに行ってみよう。いい物件があるかもしれない」
「ええ」
頷くアルカナは、モーガンについて商人ギルドへと向かった。
アルカナは商人ギルドにいくのは初めてだった。
商人ギルドは冒険者ギルドと仕組みは似たものである。商人たちが組合を作り、営業権の防衛や遠隔地の取引の安全性を高める。貴族などが後ろ盾となっている大商会に対抗すべく、庶民が立ち上げたギルドであり、規模としては王国でもトップクラスの商会と遜色ない。
「すみません、店を移転するので物件を見たいんですけど」
「かしこまりました」
受付でモーガンが言うと、物件がリストアップされた紙の束を職員が持って来てくれた。
いくつか見た中で二人が決めたのは、二階が住宅になっている住居兼店舗の物件だ。
二階にふた部屋あるのでプライバシーが守られるし、これならばいいだろう。すでに二十日間を路地裏の狭い店の中で一緒に過ごした二人は、一つ屋根の下で住むことに何の抵抗感もなかった。
そもそもアルカナは屈強でむさ苦しい男たちと何日もダンジョンに潜る日常が常態化していたので、今更モーガンと二人暮らしするのに疑問は抱かない。店をやるなら一緒にいたほうがいいし、アルカナが一人で住むとまたグレインのような輩に誘拐される可能性すらある。
店の場所を決めた二人はあっという間に契約し、引っ越しを済ませた。
「いやぁ、〈空間魔法〉ってすごいんだね」
荷物を次々と亜空間から取り出し配置していくだけなので、引っ越しは簡単だった。
「まあ、荷物をしまう・運ぶ以外には何の役にも立たないけどね……」
亜空間を閉じながらアルカナは言う。完全に収納に特化した魔法は、便利だが便利なだけだった。今までは。
「でも、〈付与魔法〉さえあれば〈空間魔法〉の有用性は大きく広がるわ!」
アルカナは拳を握った。夢は大きい。これからこの新しい店で、新しい人生を始めるのだと思うとわくわくした。
「そうだ、〈付与魔法〉といえば……僕の魔法レベルだとアルカナの〈空間魔法〉の良さを最大限に引き出すことができないから、やっぱり付与魔法士を仲間に入れないとダメだよなぁ」
魔法レベルを鍛え上げた付与魔法士ならば、永続効果のある付与魔法をかけられる。それだけでなく、付与できる魔法の幅も広がるのだ。
強力な付与魔法士を仲間にできれば、亜空間に収納できる容量も増えて中に入れるものの保存状態も保てるようになるだろう。
そうすればいよいよアルカナが冒険者たちから追いかけ回されることもなくなる。
「付与魔法士、冒険者ギルドにもいたけれど」
まさかアルカナが冒険者ギルドにのこのこスカウトしに行くわけにもいかない。
「商人ギルドにもいるはずだよ。優れた付与魔法士はむしろ、魔法具作りに必要不可欠だから。商人ギルドの求人票を漁ってみるか、こちらから求人をかけるかしようか。今日はもうギルドが閉まっている時間だから、明日だね」
そんなモーガンの言葉にアルカナが頷く。
「よし、ひとまず、今日のところはもう休むとしようか。色々あったわけだし」
「そうね、ありがとうモーガンさん」
グレインの襲撃、店の引っ越し。
色々と事件のあった一日だった。
二人は新居で食事を取ると、早々と眠りについた。
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