第4話 空間魔法つき鞄の性能を検証しよう!
空間魔法つき鞄を売るために二人は実験を始めた。
とりあえず、付与された空間魔法の検証をするところから始める。
「モーガンさん、店中の鞄を持ってきてくれない?」
「よしきた。二階の自宅部分にもたくさん置いてあるから、それも持ってくるよ」
「手伝うわ」
モーガンと一緒にアルカナは店にある鞄という鞄を集める。モーガンは随分と鞄を作り込んでいて、様々な形状のものがあった。ポシェットタイプの小さいものから旅行に行ける大型の鞄まで、実にバラエティに富んでいる。検証のしがいがあるというものだ。
「よし、じゃあこれに〈付与魔法〉をかけるよ」
「お願い」
モーガンは鞄を一つ一つ机に置いて、地道に〈付与魔法〉をかけていく。
腕のいい
そもそも付与魔法は鍛えていないのだろう。持続効果五日というのは、付与魔法の最低レベルのスキルだ。
そんな鞄職人のモーガン、魔力量はそこそこにあるらしく、大量の鞄に魔法をかけても平気そうである。
普通、あまり魔法を使うと息切れしたり疲れたりするのだが、そういう症状は見られない。
「よし、じゃあ私もどんどん〈空間魔法〉をかけていくわ」
モーガンが平然としているので、アルカナも仕事をしようと腕まくりをして〈空間魔法〉をかけていく。
「これで最後の鞄だね」
「ええ、全ての鞄に魔法をかけ終わったら、次は鞄にかけられた〈亜空間〉の性能チェックよ。ーー
アルカナは呪文を唱えてオリジナルの亜空間を展開する。すると何もない空間に亀裂が走り、黒っぽい裂け目が現れた。
アルカナは裂け目に躊躇わず手を突っ込むと、ゴソゴソと探った。
「え……っと、たくさんあるからこれがいいかしら」
そして取り出したのは、布の袋に入った大量の林檎。裂け目からズルンッと現れた袋入りの林檎にモーガンが仰天した。
「何だい、この大量の林檎は」
「ダンジョン用の携帯食料よ。林檎って便利なのよね。丸齧りできて、水分も食事も同時に取れちゃう。魔物が出たら食事中でも即座に戦闘に入れるし、ゴミもほとんど残らない。亜空間の中だと腐らないから、たくさん入れてあるの」
アルカナは林檎を詰まった布袋をさらに四つほど取り出す。
「よーし、じゃあ、この鞄の中に一体どれほどの林檎が入るか試してみましょう!」
二人で店中の鞄に林檎を詰めた結果、わかった事がある。
「亜空間の容量は鞄の大きさと関係しているっぽいわね」
手のひらサイズの小さめのポシェットには林檎が十個しか入らなかったが、旅行用の手持ち鞄には布袋ごと入れる事ができた。
「これはきっと、〈空間魔法〉じゃなくて〈付与魔法〉の効果範囲のせいだと思うの」
「なるほど。鞄の大きさが大きいと〈付与魔法〉がかかる効果範囲も広くなるから、〈空間魔法〉の能力も向上すると」
「そういう事。ねえ、次はわざと〈付与魔法〉の効果を切ってくれない?」
「オッケー」
モーガンはアルカナに言われた通り、一つの鞄にかけられた〈付与魔法〉を取り消す。
普通の鞄に戻ったそれに再び〈付与魔法〉及び〈空間魔法〉をかけてから亜空間に手を突っ込んでみる。何も入っていない。
「同じ鞄に〈付与魔法〉をかけ直すと、また新しい亜空間が作り出されるみたいね」
「そうすると、仮に亜空間にものを入れた状態で〈付与魔法〉の効果が切れると困ったことになるな」
「そうね……ちょっと待ってて」
アルカナは少し考えて、自分の亜空間に手を突っ込む。それから少し手を動かすと、目当てのものが指に触った。
「見て、これ」
「林檎だね」
モーガンの言葉にアルカナは頷く。
「さっき私の亜空間に入れてあった林檎は全部出したはずなの。にも関わらず林檎が出てきたってことは、〈付与魔法〉で付与された亜空間は、全て私の亜空間と接続されているって事じゃないかしら」
「なるほど、確かにそう考えられそうだ」
この推論を確認すべく、今度は鞄に付与された亜空間に目印をつけた林檎を入れていく。
すると、他の鞄からは入れた林檎しか取り出せなかったが、アルカナの亜空間からは全て取り出す事ができた。
「やっぱりね」
アルカナは納得した。
〈付与魔法〉で付与された亜空間は各々独立した空間になっているが、その実、全ての亜空間はアルカナの持つオリジナルの亜空間に接続しているのだ。
「これならもし途中で〈付与魔法〉の効果が切れたとしても、店に持ってきて貰えば中身をお返しできるな」
「ええ」
モーガンの言葉にアルカナは同意する。
入れっぱなしで効果が切れて永遠に取り出せなくなるとすれば困りものだが、そうでないならば安心だ。売り出す上で注意を促し、同意を得た上で買って貰えばいい。
「よし、次々に性能確認していくわよ!」
二人の鞄の性能検証は続いてゆく。何せアルカナにとっても初めての〈空間魔法〉の付与。一体どんな効果があるのか、何ができて何ができないのかがわからない。
そして一週間も続けると、いろいろな事実が判明した。
・容量は鞄の大きさに比例して決まる。
・〈付与魔法〉の効果が切れると亜空間に接続不能となるので中のものが取り出せなくなる。
・ただしアルカナの持つオリジナルの亜空間から取り出す事が可能。
・効果が切れる前に〈付与魔法〉を重ねがけすると、その鞄の持つ亜空間は引き続き使える。
・中に入れたものは鮮度を保てない。徐々に腐ってゆくので注意が必要。
・入れるものは無生物に限る。生き物は無理。
・鞄に穴が開いたり大きく破損すると付与魔法の効果が切れる。
「こんなところかしら」
検証結果を紙に書きつけたアルカナが言うと、覗き込んでいたモーガンが頷いた。
「あぁ、ばっちりまとまっていると思うよ。アルカナの持つオリジナルの亜空間に比べるとだいぶ性能が劣るね」
「そうね」
モーガンの言葉にアルカナは同意した。
「容量や鮮度なんかは〈付与魔法〉のレベルに依存しているんだと思うの。私の亜空間も最初は小さかったし、入れたものの鮮度を保てなかったけど、鍛えていくうちに段々と容量が増えて、いつの間にか食べ物も飲み物も腐らなくなったし。生物が入れられない点は同じだけれど」
もしかしたらアルカナの亜空間ももっと鍛えたら生物を入れられるようになるのかもしれない。やらないけど。
「それから、鞄が壊れると付与魔法の効果が切れるっていうのも意外だったわね」
鞄を壊すのは忍びなかったので、アルカナとモーガンは布袋に〈付与魔法〉〈空間魔法〉をかけてからわざと袋を破ってみた。すると付与魔法の効果がなくなり、亜空間に接続できなくなってしまったのだ。
となると、ただの袋に〈空間魔法〉を付与して売り出すというのは難しそうである。
冒険者の行動というのは過酷なので、ある程度の強度がないと簡単に壊れてしまうだろう。なのでやはり付与するのはモーガンの作った鞄という事になる。
「売る時に注意事項を説明した上で同意書にでもサインして貰えばいいか」
「ええ、そうしましょう」
後で話が違うなどとごねられても迷惑なので、そこはきっちりした方がいいだろう。
アルカナとモーガンは顔を合わせた。
「よし、じゃあ……」
「そうね、じゃあ……」
「「早速鞄を、実際に販売しよう!!」」
性能がひとしきりわかったところで、販売開始だ。
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