第9話 魔王

「やっ、やるじゃ、ねぇ、か。」

男は、戦士を見上げながら言った。

「お前も、な。」

戦士も息を切らしながら言った。

「最後に、教えて、やる。

おれ、は、魔王じゃ、無い。」

男は血の気を失いながら言った。

「なっ、なんだって。」

「盗人、だ。

あの、娘から、城を奪った。

魔王、は、あの、むす・・・」

そう言って、男は息絶えた。


「どういうことだ。

この男が言ったことは、本当なのか?」

戦士は、戸惑い、勇者を見ながら聞いた。

「ああ、多分、本当だと思う。

この男は、高度な魔法も使っていたが、魔王が使うには、あまりにも弱すぎるんだ。」

勇者が戦士を見ながら言った。

「しかし、だからと言って、あのが魔王だなんて。。。」


「わたし、全て思い出しました。」

戦士がそう言った時、2人の後ろから、魔法使いの少女の声が聞こえた。

勇者と戦士が振り向くと、とても悲しそうな顔で、少女が立って居た。

「わたしの名前は、キュケア。

この城の城主です。

そして、魔王と呼ばれた父、ギュゲルの娘。。。」


しばらく沈黙が続いた。

「キミは、お父さんの血を、受け継いでいるのか?」

勇者がジッとキュケアを見つめながら言った。

「はい。」

キュケアは、目から大粒の涙を流しながら言った。


また沈黙が続いた。

勇者も戦士も、キュケアの言葉を待って居た。

「あの、消滅した街。

あれは、わたしが魔法で。。。

怒りに任せて、木や建物、そして人を、全てを分解してしまいました。」

キュケアは俯くと両手で顔を覆い、声を上げ泣いた。


キュケアが、ペットの犬のケーベルと、父の代から仕えているアルフドと共に、街へ買い物に出かけている隙に、盗人が城に忍び込み、魔石を盗み出した。

魔石は、城の中に隠していたが、それを盗人が見つけ盗んだのだ。

その魔石は、魔王の証であり、全ての魔物を従わせる力があった。

その為、魔物たちは、盗人を新たな魔王として認め、従ったのだった。


盗人は、魔物たちに街を襲わせ、それを行っているのがキュケアたちだと、ふれまわった。

街の人たちは、それを信じ、街に来ていたキュケアたちを殺そうとした。

キュケアを庇い、ケーベルとアルフドが目の前で殺され、我を忘れたキュケアは、その魔力を解放した。


街は光に包まれると、一瞬にして全ての物が分解されてしまった。

さらに、魔力の高エネルギーにより、空間に亀裂が生じ、その中へ、分解された物が全て吸い込まれてしまったのだ。


「わたし、認めたく無かった。

ケーベルとアルフドが死んだ事を、

多くの人を、殺してしまった事を。。。

全て、忘れたかった。」

キュケアは、両手で顔を覆ったまま、泣きながら言った。


少しして、キュケアは両手を顔から離し、

「すべては、わたしの責任。。。」

そう言うと、キッと勇者を見つめた。

そして、両手を勇者へ向け伸ばした。

「やめろ!!」

戦士は、強く叫びながら、キュケアに向かって走り出した。

勇者も両手をキュケアに向けると、素早く魔法を掛けた。

両手から、白く明かるい光が、キュケアに向け放たれた。


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