EPISODE 43:呼応
※
光の雨が降り注ぐ中、ピットは命を賭して戦っている。苦戦、否、劣勢に立たされているのは火を見るよりも明らかだ。飛び散る血飛沫がそれを物語っている。
しかし、加勢は出来ない。
自分にはやるべきことがある。叶えなければならない願いがある。
「える姉さん……!」
天井より伸びるぶ厚い板、透明な緑の液体で満たされた水槽。
駆けつけた遊は、囚われのえるを救い出す手段が何かないかと探る。しかし、
やはり、開ける方法を知るのは幹部のウィンクだけ。だが、彼女が馬鹿正直に教えてくれるはずがない。聞き出す前にこちらが
完全に八方塞がり。真っ当な方法では助け出せなさそうだ。
「こうなったら……」
開閉可能な仕掛けはない。作った本人は意地悪で当てにならない。
そんな開けない箱に、大事な人を仕舞われたらどうするか。
発達途上、経験も浅く幼い遊の脳味噌が弾き出した答えは――力尽く、だった。
小さく頼りない拳を、思い切り水槽へと叩きつける。
ガンッ、ガンッ、ガンッ!
「遊、それは無理ランよ!」
「やって、みないと、わからないじゃ、ないかッ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!
「まずい、新手が来たラン!」
そこへ更なる脅威が迫る。
重厚感ある鎧を装備するシャドーメイデンが二人、ガシャンガシャンと金属音を奏でて歩み寄ってくる。幹部直属の衛兵なのだろう。水槽を守るべく、不届き者の排除にやってきたのだ。
「こいつらはグランに任せて、さっさとその女を助けるランよ!」
そう言い残し、グランは衛兵相手にバリアを展開して迎え撃つ。
バキィンッ!
光の障壁を前にシャドーは衝突、閃光を浴びて
妖精の力でもそれなりの時間は稼げる。と思いきや、残念ながら影の侵攻は止まらない。
鋼のガントレットが光を掴むや否や、まるで紙を破るかのように、バリアはいとも簡単に引き裂かれてしまう。
「うわうわうわっ、想像以上に強いランねこのシャドー!」
人工生命体で、最弱クラスの戦闘員。それなのに
対抗するグランは全身より妖精パワーを
「える姉さん、目を覚ましてよ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!
骨が
それでも構わず壁を殴る。牢獄と化した水槽を打ち砕くために何度も殴る。きっと貫けると信じて全身全霊を賭した拳で殴る。
「僕だよ、黒貴遊だよ、返事をしてよッ!」
最愛の人が、恋い焦がれていた相手が、安納えるが目の前にいるのに、最後の一歩が遠い。届かない。途方もない。
ピットが、セルピアが、ハウリが、キュームが、あのグランですら必死に戦っているというのに。
自分はなんと不甲斐ないのだろうか。
「ずっと探してきた。もう駄目かもって諦めかけた。でも、こうしてまた会えた。奇跡なんだ、みんなのおかげで辿り着いた奇跡なんだっ!」
一人きりでは何も出来ない。
襲来の日からずっと怪人達にされるがまま。地球の神秘で隷属の鍵を得ても、使いこなせず失敗してばかり。誇れることなんて何もない。
今だって、仲間の怪人と妖精に戦いを任せっぱなしだ。しかも、計画で一番大切な、えるの救出すら、その手立てさえわからず必死に力任せでこの有様。駄目駄目過ぎる。
「だから、お願いだよ……っ」
どうしたら、彼女を救い出せるのか。
どうしたら、彼女の笑顔を取り戻せるのか。
どうしたら、彼女と変わらぬ日々を過ごせるのか。
涙と共に湧き上がる感情を乗せて、血染めの拳を打ち付ける。
「える姉さん……また、一緒に遊ぼうよ……っ!」
――どくん。
鼓動が、大きく脈打った。
――どくん、どくん。
遊の内より響く音ではない。それは目の前から放たれている。
――どくん、どくん、どくん。
水槽のぶ厚い壁越しのはずなのに。えるの心音が高らかに響き渡っているのだ。
「……遊、く……ん」
透き通る緑の液体に浮かぶ、えるの閉ざされていた
とろりとした、寝起きの寝ぼけ
だが、その瞳の色は間違いなく、彼女自身の意志を宿していた。
「え、える姉さんっ……!」
歓喜に遊が叫ぶ。
それに呼応して、えるは徐々に覚醒していき、
「うん……遊ぼうね、遊君……!」
その瞳が、完全に見開かれる。
――ピシリ。
開眼と同時に、水槽の表面に白い亀裂が走る。その震源地には――えるの拳。正拳突きが打ち付けられていた。
ピシッ、ビキビキッ、ビシビシビシッ。
亀裂は
「おかえり、える姉さん……!」
バキバキ……バリィィィィィィィィィィィィィィィンッ!
絶望の牢獄は呆気なく弾け飛び、緑の
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