EPISODE 38:探索


 ――ドガァァァァアアアアアアンッ!


 特大火球は組み体操な巨人に激突して大爆発。灼熱の業火が外装を担うシャドーを瞬時に焼き尽くし、逃げる暇すら与えず中心部のリーダー格まで一気に延焼させる。

 その場に残るのは残骸のみ。全ては灰へと還元されるのだった。


「あっづ!? 熱い、これ燃えてるランよオイ!?」


 何やら飛び火して燃え盛る妖精がいた気もするが、恐らく大丈夫なので放置する。

 これにて、見張り役も兼ねた警備兵は全員倒したことになる。とはいえ、またいつ新たな敵が湧いてくるとも知れない。大地が赤黒い限り、シャドーは無尽蔵に生えてくるのだ。慎重つ足早に先へ進むのが吉だろう。


へび女コラ、消し炭になるところだったランよ!?」

「なればよかったのに」

「しばくぞラン」





「中は結構広いんだね」


 “侵略の聖槍インヴェイジョン・ランス”へと足を踏み入れると、そこは赤黒さで満たされた空間。無骨な柱やパイプが交差し塔内を支えている。機能性を重視した工業製品のようだ。観光名所にありがちな塔とは趣が全く違う代物である。


「最上階に私達の元上司……エリア統括を任された幹部がいるわ」

「じゃあ、そこにえる姉さんも」

「恐らくね」


 これより先は未知の領域。圧倒的アウェー、敵のホームだ。元“アモレ”党員に道案内をしてもらうほかない。

 ピットを先頭に、遊と黒コゲパンチパーマのグランが後ろをついていく。

 四方八方どこを見渡しても赤黒い景色ばかり。廊下を歩いているだけで頭痛がしてくる。

 塔内に人の気配はない。他の怪人は担当エリアに散らばっているので不在、というのがピットの見立てだが、何故か警備員のシャドーもおらず不気味なほどの静けさだ。先程の戦闘で全員出払ってしまったのだろうか。


「ねぇ、他の三人も呼び出してあげられないかしら?」

「何を急に。出来る訳ないに決まってるラン」

「だって、二人と一匹だけだと不安じゃない。幹部怪人は凄く強いんだもの。ねぇ、遊ちゃん?」

「それは……確かに」

「言いくるめられるなランよオイ」

「まぁまぁ、地球の妖精さんはとってもケチなのね」

「やかましいラン」


 もっとも、静寂に反して一行はやかましいのだが。

 敵の本拠地、最終決戦を前にしてもいがみ合いっぱなし。肝が据わっているのか、それとも鈍感なだけなのか。緊張感がないのも頼もしさの表れだと思いたい。

 十字路で右に曲がると開けた場所に出る。

 広大なスペースに、整然と並ぶテーブルと椅子。怪人達の食堂だろう。


「キッチンは向こうで、当番の子がまかない料理を作っていたわ。地球に来てからは誰も使っていないけどね」


 棚には食器、冷蔵庫には食料。どちらも何の変哲もない。特に食材は地球の物と瓜二つ。目新しさが全くなく、それが逆に驚きだった。

 怪人態になったり異常なショタコンだったり、妙なところはあるも、基本的に人間と大差ないのだろう。不思議と親近感が湧いてくる。

 続いてやってきたのは浴場。豪勢にレリーフ加工が施されたタイルがびっしり。古代ギリシャを彷彿ほうふつとさせる内装が拡がっている。


「よかったら遊ちゃんも入っていかない?」

「いきなり誘ってンじゃねーラン」


 すぱこーん。グランのハリセンが閃いた。

 思い返してみると、ずっと風呂に入っていない。いつからご無沙汰ぶさただろうか。体臭も濃縮されて、鼻も曲がる異臭になっているだろう。もはや慣れてしまって自身では判別つかないのだが。さっぱり体を清めたい欲求に駆られてしまう。

 いや、駄目だ。ここは敵地、しかも女風呂。いくら小学生とはいえ、入浴はいけない。えるを取り戻してから思う存分入ればいいはずだ。

 浴場を後にすると、今度は書棚がずらりと並ぶ一角にやってきた。


「ここは図書館ね。私達兵士向けの娯楽コーナーよ」

「ふーん。変態怪人集団にしては高尚な趣味をしているランな」

「これって、全部惑星メイデンの本なの?」

勿論もちろん。良かったら読んでみる?」

「そんな暇ないラン」

「一冊くらいならいいんじゃない?」


 と、ピットが取り出す一冊は、ザ・エロ本。線の細い少年を襲う女怪人、というわいせつ物陳列罪な絵が表紙を彩っている。おねショタ専門の漫画雑誌らしい。『コミックSショタOオー』の親戚と思っておこう。


「遊は見ちゃ駄目ラン! っていうかお前ら、本当にショタコンまみれの社会不適合者ばかりランな!」

「ここの本は全部そっち方面だけど」

「度し難いラン」


 ここにいては目に毒と考えたのだろう。グランは遊の手を引き、更に奥へと進むのだが、


「あ、そっちはお楽しみコーナーだからやめた方がいいわよ?」

「何がお楽しみラン、いい加減に――うわぁぁぁおぅっ!?」


 飛び込んでくるのはいかがわしい道具達。エロ本なんて目じゃない、変態度三割増しな大人の玩具が所狭しと並んでいる。目に毒を通り越して放射性廃棄物。小学生にはまだ早い。不幸中の幸いにも、妖精のボディフル活用で視界が塞がれたのでセーフ。遊は殆ど見ずに済んでいた。


「やっぱり、怪人らしく一から十まで酷い場所ラン」

「まぁまぁ。僕は気にしていないから」

「遊ちゃんったら、なんて器の大きさなの! ママ、もっと好きになっちゃう!」


 悪趣味極まる部屋を通り過ぎてしばらくすると、眼前に螺旋らせん階段が現れた。

 ここが塔の中心部なのだろう。開けた空間を貫く階段は、渦巻きながら遙か上の階層へと伸びている。この先に、登りきった先に倒すべき幹部が、そして囚われ姫のえるが待っているのだ。

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