第三章:TAKE ME HIGHER

EPISODE 17:調達


 うぞうぞ群れ成すシャドーメイデン。行く手を遮る彼女達を蹴散らすのは仲間の怪人、へび女のピットと烏賊いか女のセルピアだ。二人を交互に召喚し、火炎と水流でき分けながら行く道中。

 向かう先に見えてきたのは、塩塚地区最大の大型ショッピングモールだ。


「はぁ、はぁ。やっと着いたね」

「ここまで来るのに長かったランな」


 長い旅路で疲労困憊こんぱい、遊とグランはへろへろな体を敷地内へと滑り込ませる。

 駐車場にはゴミやガラスが散乱して荒れているが、内部は比較的無事な模様。施設内に入ると、広々として豪奢ごうしゃなエントランスが出迎えてくれる。シャンデリアに女神像付きの噴水が目の前にドン。もっとも、停電で明かりは点いてないし、噴水も止まって汚れが浮いているのだが。

 閑散としたショッピングモールは静寂だけが支配している。在りし日は家族連れやカップルで賑わっていただろうが、今では客はおろか店員すらいない無人の空箱。代わりに赤黒い粘菌が侵食し、内装をグロテスクに塗り替えている。槍が降り注いだ日から“惑星メイデンの怪人侵略フェア”真っ最中だ。早く終わりにしたい。

 と、願うだけでは駄目だ。先立つ物がなければ侵略には対抗出来ない。例えば戦力、隷属の鍵を用いて使役する怪人がそれにあたるだろう。しかし、武力だけあっても意味がない。生き延びるためには食事が、人間らしい生活をするためには道具が必要である。戦力増強ばかりの脳味噌筋肉ではすぐに疲弊して立ちゆかなくなるのだ。

 つまり何が言いたいかというと、食料と日用品の調達が不可欠という話。より正確に言うのなら、遊とグランの分を確保しなくてはならない、である。

 封印した怪人達は鍵の先の異空間で悠々自適な生活を送れるが、向こう側の物資をこちらに持ち込むのは不可能。そのため、自分達の物資は己の足で探し回る必要がある。不便さに関してはグランに文句を言ったのだが、地球の個人的な都合らしいのでどうしようもないとのこと。意外と融通が利かない惑星だ。

 そんなこんなでショッピングモールまでやってきた。

 生鮮食品は腐敗している可能性大だが缶詰をはじめとした非常食は無事だろうし、様々な店舗がひしめいているので日用品も充実しているはず。その予測からシャドー軍団を力押しで倒して侵入に至るのだった。


「出てきて、ピットさん」


 赤く光る鍵を用いてピットを召喚する。先程まで戦ってもらったのだが、今度の役目は戦闘とは無関係だ。


「あら、また呼んでくれるなんて嬉しいわ~」

「一緒に買い物してほしいんだけど、いいかな?」


 この広い施設の中、小学生が一人で回っていては時間がいくらあっても足りない。なので、物資調達の人員として召喚したのだ。手持ちがないので窃盗万引き盗人行為確定なのだが、そこは生きる上で必要不可欠ということで許してもらいたい。


「二人っきりでお買い物なんて、うふふ、まるでデートみたいね♪」

「グランもいるランけどな」

「細かいことは気にしないわ、えいっ!」

「ぎゃんっ!?」


 的確なツッコミをするグランだったが、ピットのガラガラ攻撃を前に敢えなく撃沈していた。理不尽な暴力過ぎる。


「そういえば、どうして二人同時に召喚しちゃ駄目なの? さっきの戦いとか、代わりばんこよりそっちの方が良かったと思うけど」


 遊が素朴な疑問を口にする。

 シャドー退治でピットとセルピアを呼び出したが、何故交互に入れ替えて戦わないといけなかったのか。二人がかりなら、もっと早くより安全に済んでいたのかもしれないのに。


「遊がまだ未熟で、二つ同時に鍵を使うのが危険だからに決まってるラン」


 頭に大きなタンコブを乗せたグランがフラフラ浮き上がってくる。


「こいつらの使役には集中力とか強く念じる力とか、とにかく同時運用はリスクが高過ぎるラン。わかりやすく言うと、勉強しながらサッカーするみたいなかんじランね」

「二宮金次郎かな」

「この際それでいいラン」


 危惧しているのは怪人の暴走。下手に同時召喚をすれば鍵を落とした時と同レベル、否、それ以上の危険が伴うのだ。買い物のために呼び出して襲われるのも馬鹿馬鹿しいだろう。

 ちなみに当のセルピアなのだが、本人曰く「興味ない」と買い物を拒否。現在地球の書籍に夢中である。


「あっ、ジュース。いいなぁ、飲みたいランなぁ……」

「はいはい、開けてほしいんだね」


 赤黒い粘菌のせいで汚染された品々ばかりの中。きっちり蓋がされているものは無事鮮度を保っているようだ。ペットボトル入りの飲料は大丈夫だろう。

 粘菌の中からもっそり拾い上げると開栓、炭酸飲料がシュワッと溢れ出る。

ボトルを手渡すと、グランはグビグビジュースをあおる。甘い飲み物が好きなのだろう、嬉しさのあまり全身をどろり液状化させていた。どういう仕組みなのか、妖精の生態も割と謎に包まれている。


「とりあえず、飲み物と缶詰類とレトルト系はマストだよね」


 溶けたグランは無視してさっさと食料を集めていく。食料品コーナーをカートで爆走、食べられそうな物をどっさり回収だ。

 後先考えず次から次へとポイポイポイポイ。一体どうやって持ち運ぶつもりなのか、大抵の人がそう思うだろう。しかし全く問題なし。グランのスカートは大体四次元空間、詰め込めばいくらでも入る便利設計だ。ジュースにご満悦のところ、遠慮なくホイホイ品物を突っ込んでいく。絵面が酷い。


「こうしていると、える姉さんと一緒にいた時のことを思い出すなぁ」

「える……あー、遊が助け出したいって言ってた女ランね」


 ボディを個体に戻したグランが尋ねてくる。

 思い返してみると、安納あんのうえるについて詳しく話していなかった。怪人に襲われたり、戦い方を覚えたり、怪人に襲われたり。目まぐるしい旅の中、落ち着いて話す暇もなかった。

 丁度ちょうど良い機会だろう。

 遊は、ほんの数日前の、えると過ごした日々を思い出す。


「槍が降ってきてからすぐ、僕はえる姉さんと再会して、それから……」

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