EPISODE 14:激突
「やむを得ない、蛇女を召喚するラン!」
「う、うん」
先程襲われたばかりで不安しかないが、事は一刻を争う。
腰のホルダーより赤い紋章を輝かせる鍵を取り出すと、虚空へ掲げて解錠。一時的に封印を解かれ、目映い光と共に人間態のピットが飛び出してきた。
「まぁ遊ちゃん。こんなにすぐ会えるなんて、ママとっても嬉しいわ!」
と同時に、ハイテンションで抱きついてきた。
「さっきの続きがしたくなったのかしら? いいわよしましょうやりましょう
「ち、違いますよ」
「オイコラアル中変態蛇女、状況をよく見ろラン」
グランが一発後頭部をはたく。これはふざけている場合ではないな、と気付いたピットは、細い目を見開き蛇の瞳で真っ直ぐ敵を見据える。テンションの乱高下で温度差が凄い。変温動物として大丈夫なのだろうか。
「まさかセルピアと相対するなんて、運が悪いにもほどがあるわね」
苦虫を噛み潰したようにピットは顔を
「もしかして知り合いなんですか?」
「同じエリア担当の同僚で平兵士なんだけど、セルピアは成績優秀鳴り物入りで組織に入党した子。あだ名は“悪魔”とか“死神”とか、私の姉並みにエリート街道まっしぐら間違いなしの強敵よ」
「姉はエリートなのにお前は平兵士ランな」
「うるさいわね」
ばきっ。
余計なことを言ったせいで、グランの頭部にガラガラの
「……裏切り者」
セルピアの冷え切った声が鼓膜を凍えさせる。表情は変わらず乏しいままなのに、語気だけで怒り指数急上昇なのだとひしひし伝わってきた。当然だろう、怪人からすれば人間側につくなんて裏切り行為に他ならないし、
「あの、これは違うんです。僕が地球の力で封印したせいで、ピットさんの意志じゃないっていうか……」
ピットの名誉のためにと、遊はしどろもどろ弁解する。元敵とはいえ今は頼れる仲間なのだ、汚名を着せられたままでは寝覚めが悪い。どこまで理解してくれるか、そもそも聞いてくれるか怪しいが、伝えておかないと気が済まなかった。
「遊ちゃんを美味しく食べるために寝返ったのよ、裏切って何が悪いのかしら?」
「いや、それはそれで困るんですが」
しかし、
「どっちでもいい、あなたを倒すだけ」
興味なさげにセルピアは宣戦布告、胸元より青い光を湧き上がらせる。怪人共通の特徴である紋章が光っているのだ。
冷え切った顔に仮面がオーバーラップすると、衝撃波を放ちながらセルピアの姿は怪人態へと変貌していく。セーラー服の
白い体に差し色の群青が映えるボディ。胸元に輝く紋章とその個性的な容姿から、
「こっちも変身して対抗するラン!」
「ピットさん、お願いします!」
「もちろんよ!」
隷属の鍵の主たる遊に従い、ピットは紋章を輝かせて怪人態へと変身。赤い仮面を被る蛇女、スネークメイデンの姿を
赤黒く染まったアスファルトの上、二人の異形が睨み合う。ジリジリとひりつく空気で満たされる中、先に動いたのは――ピットだ。
「ピットさん、“
遊が技を指示すると、ピットの頭部より生える蛇の群れが開口、一斉に炎の弾丸を連射する。ざっと数十発もの火の玉が敵を焼き尽くそうと降り注ぐ。
「“
対するセルピアは右手を掲げる。その手首には烏賊の
「
仮面に覆われてその表情は見えず――見えたところで感情は読み取れないだろうが――声色からして一切動じていないのだろう。ピットの技を軽々と無力化するあたり、エリートの名に恥じない風格である。
「炎属性と水属性。この勝負、蛇女の方が不利なのは火を見るより明らかラン! ……炎属性だけに」
グランがうまいこと言ったとドヤ顔になっていたが、ピットに殴られて沈黙する。
そのわずかな隙にセルピアの反撃が迫る。烏賊特有の伸縮自在な
「きゃああっ!?」
打ち据えられたピットは道路上を滑り、血飛沫をまばらに撒き散らせていく。赤黒い地面を緑色の鮮血が鮮やかに彩っていた。
「さすが、私より年配の平兵士らしい弱さ」
触腕を引き戻しながらセルピアは冷徹に煽る。短い言葉で的確に心を
「何ですって……?」
「姉が昇進する中取り残されているのが良い証拠」
「随分と舐めてくれるじゃない。私を舐めていいのは遊ちゃんだけよ!」
そういう意味じゃない、というツッコミを入れる者はおらず。
侮辱された怒りをバネにピットは跳ね起きる。
勝負はまだまだこれからだ。
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