EPISODE 15:打開
「ピットさん、“
遊は接近戦の指示を出す。
属性の相性の悪さから、いくら火の玉を連射したところで鎮火されるのが関の山。それなら消火活動が不可能なほど肉薄して攻撃する方が有効だろう。
「ふんッ、せいッ、はぁぁあッ!」
ピットは両手両足を業火で包み込み、高熱の連続攻撃を繰り出していく。しかしセルピアは涼しい顔、ゆらりゆらりと紙一重の身じろぎで
「この……っ!」
渾身の拳を顔面へと放つが、その一撃は烏賊の掌に受け止められてしまう。ぐにゃりとした手応えのなさにピットは顔を
「私に打撃攻撃は無意味」
「それはどうかしら?」
有効打でないにも関わらず、ピットはニヤリと不敵な笑みを浮かべている。一見すると苦し紛れなのだが、それは違う。
ぷすぷすと、何かが焦げる香ばしい香りがする。祭りの露店から漂ってくるようなそれはまさしく烏賊焼きの臭い。ピットの燃え盛る拳を受け止めたせいで、セルピアの掌はコンガリ美味しく焼け始めていたのだ。白い肌はみるみるうちに茶色く焦げ目がついていく。
だが、それでもセルピアは動じることなく、
「“
二本の触腕を伸ばすと、ピットの腕に巻き付けて動きを封じた。
「嘘っ、女の触手プレイなんて需要ないわよ!?」
「うるさい」
セルピアが右の噴射孔を構える。ゴボゴボと内部から響く水音は、高水圧の一撃を放つためのチャージ音。必殺の鉄砲水でピットを葬り去るつもりなのだ。
「食らうものですか!」
ピットは頭部の蛇軍団を伸ばし、それぞれを触腕に噛みつかせる。鋭い痛みで怯んだのか拘束が一瞬だけ緩む。セルピアは圧力を増した“
「ピットさん、そのまま“
敵の懐に入り込むと、燃え盛る拳をセルピアの無防備な腹へと叩き込む。柔軟なボディ相手にやはり手応えはないものの、殴打の衝撃でセルピアは軽々吹き飛び街路樹に叩きつけられる。大木の表面が削れて
「これが遊ちゃんとの愛の力よ!」
「違います」
ピットは満面の笑みで同意を求めてくるも、遊はぶんぶん首を振って必死に否定する。その愛は少なくとも性欲由来の不純な愛だし、一方的な愛を押し付けられることほどはた迷惑なものはないだろう。怪人が故に無自覚なので余計に
「……やるわね」
ゆらりと起き上がるセルピア。その頭部は緑色の血で
「“
左の噴射孔より勢いよく黒い
「まさか逃げるつもり……――きゃあっ!?」
逃走を危惧するピットだったが、直後その脇腹に激痛が走る。柔らかい物で打ち据えられた――セルピアの触腕攻撃を食らったのだ。
煙幕は逃げるための
「うぅっ、痛いじゃない……――ひぐぅっ!?」
煙幕のせいで全方位が死角のようなもの、迫る攻撃に直前まで気付けない。
次々と霧を割って伸びる触腕の殴打に為す術なく、ピットの体から緑色の血が飛び散り大地を染め上げていく。
「このままじゃピットさんが……でも、どうすれば」
仲間が防戦一方を通り越してやられ放題。だというのに自分は手をこまねいてばかり。ピットがいくら元敵の変態怪人とはいえ、今は地球のため共に戦ってくれる仲間。封印を施したマスターなのだから、どうにかこの状況を脱する方法を導き出す義務がある。というより、打破出来なければそれこそ一発退場ジ・エンド、旅は一日目にして終了だ。
遊は幼い頭をフル回転させて思考する。
敵のセルピアは黒い霧の向こうから攻撃してくる。どこにいるかわからないせいで後手後手、身を
「ううん、違う。これならいける!」
――そこで閃いた。
単純な話だ。セルピアに効かないのなら、攻撃以外に使用すれば良い。
「ピットさん、黒い霧全方位に向けて“
「ええ、わかったわ遊ちゃん!」
ピットは髪の毛状の蛇を逆立てて、周囲三百六十度隈なく炎の弾丸を乱れ撃つ。拡散するその一発一発は低威力、敵に命中することもなく虚しく彼方へ飛んでいく。
一体何のために。
その答えは、煙幕を文字通り霧散させること。
火の玉に吹き飛ばされて視界を覆う黒は晴れ、背後より迫るセルピアの姿が露わになった。
「カウンターの“
「食らいなさい、底辺の底力を!」
振り向きざまに繰り出される炎の拳。右ストレートを遮るものは何もなく、勢いそのままに青い仮面を撃ち抜いた。
「ぅぐっ!?」
不意打ちのつもりが逆に殴られた。まさかの反撃にセルピアは動揺したらしく、よろめきのけぞり無様に
ぴしり。
真っ青な仮面に
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