第50話 壊れたシナリオ
「なんだかここに来るのも最後な気がするわ」
点と線が全てつながった、今やれることは限られている。
「未来の私の意思は強すぎて私の人格を壊していた。でもどういうわけかこの空間にいることで人格がリセットされたようね。みんなには本当に悪いことをしたわ」
今の私なら未来の私のことも受け止めて、みんなといっそに大事をなせる気がする。
「ここが勝負よ」
私のいた裏世界はすっかり発展しきっていた。だからこそこれから私の行動が伴う。
私の中の何か強い意志が覚醒していることに気付いた。
長い距離を渡る中で私は、何もする気が起きない。
もう一人の私が、そこから先は地獄であると囁くのである。
「そんなことは知っている」
でももう衝動はとどまることを知らないのである。
「私は突き抜けるところまでいかなくてはならない。だったらもう徹底的に、自分を貫くだけ」
意志がどんどん固まる。
「託されちゃったからね」
そう思うと次の扉を開けるのだった。
「え?」
これは、まさかのセーブポイント更新? いったいどこから。
「ミケレ」
「殿下、どうしたんですか、その姿は」
「僕のことはいいんだ。君の気持ちを聞かせてくれ」
「いや、それはどういう」
「なぜ君はエレメナに手をくだしたんだい?」
「いったい何のことですの」
「ミケレ、この場にそぐわぬ発言というものがあるのを知っているかい。完璧を求めてはならないよ」
いったいもってこれはどんな状況なのか。
「ミフリ?」
殿下の背後からミフリが現れた。
「この世はバランスのもとで成り立っています。ある人が得をすれば保存的に他の人が損をする。私は祝福によってそんな現状を変えたいの」
「何よ今更」
「啓示が変わりました。あなたは敵です」
「え?」
流れが180度変わった。
「その命をいただきます」
次の瞬間、私の体は奈落に沈んでいった。
「あれは」
殿下の背後に何かが見える。
あの姿はエレメナ? 殿下の手を取っている。私を見下すように。
「ああ、あの手を取るのは私がふさわしいはずなのに、どうしてこんなことに。もう許せない。全部なくなってしまえ」
再び私の心が闇に飲まれていく。
「シナリオが安定しない。この情報を保つのは難しいかしら」
「壊れたシナリオを改変するにはそれなりの知識がいる。まずは時間を置くことだ。それが君にとって一番大切なこととなる」
「あなたは」
「制御者、この世界をかたどるもの」
「はあ、全く、もう滅茶苦茶ね、ついていけないわ」
「後の祭りとしてはうまくいったんじゃない?」
「未来の私? 生きてたの」
「いやほぼ思念体だね。でももう終わりも近いと思ってありったけの力をつぎ込んだんだ」」
「そう、エレメナをどうにかしかしてほしいのだけど」
「どうやら私の制御をはずれて異質な力をもったみたいね。あれは本体も飲み込む勢いじゃないかしら」
「あなたね、なんでそんな軽いの」
「まあ、でもある意味で緑陰の魔女を倒すのにはもってこいかもしれないね」
「確かに、でも私は完全に敵視されてるけど」
「いいんじゃないかな、合わなきゃいいだけだし。何とかごまかして殿下だけ連れて元の世界に帰れば」
「いいわねそれ。というかもとよりそのつもりだよ。さっきはあなたの残存思念が私の頭にとりついたせいで無茶苦茶だったんだからね」
「それは悪かったよ」
「はあ、認めるってことはどうなるか知っていたのね」
「まあ、でもすぐに治ったでしょ、そこまで想定すみなのよ」
「本当かしら」
「本当よ」
「そう、じゃあ、殿下だけを救うつもりでいくわ」
「それがいいわ」
「でもエレメナはどうしようかしら」
「あきらめることね」
「……まあ、そこは殿下との兼ね合いで決めるわ」
「そうね」
「じゃ、いくわ」
「あら、もう行くの、随分と話が早いのね」
「まあね。もう考えは定まったから」
「いいことだわ。私の助けももういらないかもね」
「いや、思念体でなにができるの?」
「辛らつですね」
「だって事実じゃない」
「ふん、そう、じやあ好きにすれば」
「ありがとう」
「え?」
「ごめん、ちょっと戻ってきて嬉しかったからつい」
「突然やめなさいよ、驚きましたわ」
「やっぱり私には未来の私が必要だったと分かりました」
「じゃあ私からも、ちょっと闇落ちに興味があって、興味本位だった」
「興味本位でそこまでする?」
「ええ、まあ」
「はあ」
もはやあきれしかない。
「分かりました」
静寂の時間が流れるが何も起きない。今私は何をしているのかすらわからない。あまりに多くのことがありすぎた一方、一気に情報が洗い流されていく。
「まるで頭の中が荒い流されて真っ白になった感覚だわ」
今まで何を考えていたのでしょう。手に入れたいものが手に入ったのですから、何も思い悩むことはないですのに。
これでよかったのでしょうか未来の私。
「歴史の修正が起きた時、全ての物語は元へと戻る。この時代にずっとこもっていたいかしら」
殿下との永遠の愛が実現した私は、何もない場所で途方に暮れる。
この扉を渡れば次の時代への繋がるが、あまり気が進まない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。