第51話 終わり一歩手前

「殿下?」


「君は誰だい?」


「え?」


 目の前にいる殿下は明らかに様子が違っていた。


「記憶を消しました」


「は? え?」


 殿下の傍にいるエレメナは意味の分からないことを言い出した。


「意味が分からないよ」


「ミケレさんが目を疑いたくなるのも無理はないですよ。だって私、あんたのことをずっと疎ましいと思っていたのですもの」


「なんですって」


「殿下は私のものですよ」


 私は何とも言えぬ怒りを感じて、次の瞬間エレメナにとびかかった。


 地面にエレメナを倒し、両手をエレメナの顔の両隣の方の地面につく。


 完全にこちらの優勢のこの局面に立たされても、エレメナは怪しい表情をしてこちらを見て笑っていた。


「あなたどこまで狂ってしまったの」


「狂ってしまったのではなく、元から私はこういった存在、分かるでしょ、私は断片だって」


「まさか」


「そうよ、私の本質は本体と何ら変わらない。気づくのが遅かったのね」


 次の瞬間楽園の進行が始まった。


「これは」


「ミフリにやらせてたの。本体がもうすぐこちらに来るから準備をしておかないと」


「そんなことはさせないわ」


 私はエレメナから逃げてミフリの元へ向かった。


「ミフリ」


「うん? あらミケレさん」


「今すぐ神秘結晶を離してください」


「いやです」


「なんですって」


「私は啓示を受けました。あなたは敵です」


「またそれですか、それは嘘の啓示ですよ」


「そんなはずはありません」


 これは困ったものだ。


「これからどうすればいいかはよく考えることだね」


「そんなこと出来たらやりたい放題なんだけれども」


「とにかく、私は役目をなしました。いまさら私がどうとかいう問題ではないので」


「自分に返ってくるよ」


「構いませんね。この身は啓示に捧げているので」


「狂ってますね」


「何を言われようとかまいません」


 これはダメだと感じた。


「そうですか分かりました。好きにすればいいです」


「最初からそうしてればよかったんですよ」


「でも」


「っ!」


「殿下に危害を加えるわけにはいかないんですよ」


 私は突然ミフリにとびかかって、神秘結晶を奪った。


「こんなものがあるから」


「やめてえええええ!」


「バリン!」


 私は神秘結晶を地面に投げて壊した。花畑の浸食が止まり後退していく。


「な、なんていうことを」


「言ったでしょ、こんなもの何も意味ないって周りをみてみれば」


「え?」


 ミフリの周囲には誰もいなかった。みんな花畑に飲まれてしまったのだ。


「あなたは祝福を与えると独りよがりな理由で利用されていただけなのよ。信頼していた仲間はみんなあなたの犠牲になったのよ」


「そんなこと知っている」



「あなたが王女様として理想としていた光景とは、こんなことだったの、周囲に誰もいないじゃない」


「誰もいないのではなく、みんなは花畑の中に祝福として新たな形を得たのです」


「狂ってしまったの?」


「私はあの原型を見た日から何も変わらない」


「原型?」


「私はあの時エレメナに出会いました、魔女様に出会ったときにね」


「魔女様って、もしかして緑陰の魔女のこと?」


「ふふふ、あの時から、全てはこの日のため」


「やはり古の碑文はあなたが黒幕だったのねミフリ」


「私は昔から不器用で、落ちこぼれでしたの。こんな私を見てくれる人なんて、変わり者の博士くらいでしたわ。だからこそ私には知恵が必要だったの」


「だからってこんなことをする意味ない」


「私が許されないことは承知の上です。最早動き出したシナリオを止めることはできない」


「あなたって人でなしねミフリ」


「もとよりそのつもり」


「そう、あなたは思ったのと違う人物みたいね」


「悪かったね、そろそろね」


「うん? あれは」


 遂に緑陰の魔女本体が現れた。


「あれがあなたが望んだ光景なの?」


「そうよ」


 エレメナが現れた。


「私たちは緑陰の魔女の繁栄の元動いていたの」


「くたばったらいいわね」


「辛らつ」


「未来のあなたには随分と手こずらされたものね」


 未来のわたしは敵のふりをして計画の邪魔をしていたのか、流石ね。


「本体の崇高な意志から欺こうとあれこれ記憶に細工していたようだけど。策士策に溺れるとはこのことね」


「今は見る影もない」


「でも私がいるわ」


「あなたに何ができるの?」


「意志は引き継いでいる」


 次の瞬間お城の階段を駆け下りた。


「どこへいくの?」


 2人とも追ってくる。


「どうしたの? 余裕がないようね」


「なんですって」


「怖いの? 新たな環境変化が」


「そういうわけじゃない」


「でも表情に出ているよ」


「くっ調子に乗るな!」


「エレメナ、あなた殿下に捧げる歌はどうしたの?」


「……」


「恐れているんでしょ新たな世界を」


「そんわけないじゃない」


「私は未来の私から殿下について、伺ってある作戦を立てたの。それは殿下の特殊能力だわ。婚約者である私と、最も親しい人が意識をして衝突仕掛けたとき、それは発動するの」


「なんですって?」


「待たせたねミケレ、そしてエレメナも」


「殿下? どうしてここに記憶が消えたはずじゃ」


「呼ばれてね、ミケレに」


「演技だったかこの人でなしが」


 その時背後にぞっとする気配を感じた。


「あなたは」


「皆さんこんにちは」


 緑陰の魔女本体である。


「いったい何しにきたんだか」


「はやすぎではなくて」


「関係ないよ」


「物事とは唐突に起きるものなのです。それこそ何も兆候なく突然に起きうること、まるでダンジョンのように」


「何を言っているの」


「あなた方も本心を言ってみてはどうですか? 本当は切望しているのでしょう? 終わりを」



「勝手に終わりにしないで」


「あなたのループに限界がおありなのをご存じですか? つまりどういうことかっていうと、終わりなんですよ」


「終わり?」


「まるで理解していないのね。可哀そうに」


「それはどういう意味」


 緑陰の魔女は私を哀れんだ目で見てきた。


「能力を持っている私から言わせてもらうと、あなたのそれは本来持っている能力ではないのだから、その分他の人とは違う手で自身を伸ばしていかないといけないのよ。つまり分不相応なのよ」


「そんなことは知ったことではない」


「盤面を整えようか」


 緑陰の魔女はエレメナの傍に近づいた。


「私の近くに来て」


「はあ、本体に呼ばれしまいましたわ。ミフリ、あなたともお別れね」


「そうね、私はやることを終えたわ」


 ミフリは花畑に飲まれていった。同時に共鳴したエレメナは本体に飲まれた。


「エレメナ、私は使命を果たしたわ。後はお願いね」


「任せてください」


「狂ってる」


「何を言われようとかまいませんね」


 私はその光景を見て思わず言葉が漏れた。



「記憶の断片、よくやったわ。この舞台を用意してくれて」


「ええ、後は私の願いをお願い」


「ええ勿論」


「え」

 

 その時共鳴したエレメナは緑陰の魔女に貫かれた。


「どういうことよこれは」


「あなたの願いは本体である私に吸収されることでしょ。元居た場所へ帰るんだよ」


「そうじゃない、私はミフリと約束したの。新たな世界を作るって。あなたのために集めたこの無数の花畑は、新しい世界を作る永遠のエネルギーに足りうるものだわ」


「どういうこと」


「本体が来れば花畑の花は新たな段階として開花すると聞いた。これによりみんな夢の中で幸せになるの。これこそ楽園計画。永遠のエネルギーを作る。私もミフリと一緒にその中に居たいのに」


「知らないね。全部あなたの妄想じゃないの」


「私がばかだった」


「ふふふ、おあいにく様。力が全てなんだよこの世は」


 エレメナは緑陰の魔女に吸収された。

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