第48話 未来からの贈り物
「どうしたんだミケレ、青ざめた顔をして」
「うん? え? すいません。何でもないです」
「よかった、では皆様よろしくお願いしますね」
ミフリがいた。依然と前回のループから変化はないようだ。
「ミフリさん!」
「なんですか」
私はみんなが解散する中で、ミフリを呼び止めた。
「神秘結晶は大切にしてください、これは私は受け取れません」
「え?」
その時時間が停止したように思えたのだった。
「どうしてですか、ミケレさん、あなたこそ神秘結晶覚醒にとても需要な存在なのですよ」
「私聞いちゃったんです。ミケレさんが昔から叶えたかったことの結晶がこの神秘結晶なんだって」
「どうしてそのことを」
「でも自分の願いは自分で兼ねるべきです。そうでなくては、いずれ心が折れてしまう」
「はっ」
ミフリの表情はかなり引き締まって見えた。
「自身の覚悟を問う、私に足りない考えだったかもしれません。いいことを聞きましたありがとうございました」
「いいわよ別に」
ミフリは笑顔で私を見送った。
「ミケレさん、なにかミフリ様から渡されました?」
「いいえ特に」
「そんな馬鹿な」
旧エレメナが話しかけてきた。
「どうかしました」
「いえ、なんでもないです」
かなり動揺しているようね。私に神秘結晶を渡す算段だったようなので。
「では、しばらく私たちはやることがないようですね」
「そのようね」
「難しそうだけど、何か優位的な手段を提示できるよう考えたいですわ。私には利用価値の提示ができると確信しています」
「面白そうですね」
おもえばこれまでのループにおいて私はエレメナに肩を持ちすぎじゃないかしら。あまりに殿下の気持ちはあちら側に傾き過ぎている気がする。
「そんなのおかしいじゃない」
私たちは今同じ時間を超えた世界に来たという強い絆で結ばれている。だからこそ一緒に問題なく過ごせているの。
この関係は崩れることはないし、継続もするとは思う、しかしでももっと先に行くならどうすればいいのかしら。
私は凄く興味深い気持ちになった。
「今回はもう少し自分の気持ちに正直になろうかしら」
神秘結晶をミフリからもらうのを断ったことで、ミフリは私に何も遠慮することはなくなった。ここからどうするかが重要である。
「何をすればいいのかな」
「ふと見上げると目の前にはエレメナがいた」
「どうしたの」
「いえ、ちょっと私はもう一人のエレメナが気になって仕方ないのです。私と無関係ではないのかもしれない」
「そう? じゃあ、エレメナに聞いてみれば?」
「それいいですね」
エレメナが旧エレメナを尋ねたらどうなるのか非常に気になった。
「ねえ、エレメナ氏」
「なんですか」
「本当に私たちは何も関連性がないのですかね」
「そのはずだと思うのですが」
私はここだと確信して一気に突っ込んでいった。
これこそ一矢報いる決死の一手である。
「嘘でしょエレメナ氏」
「え?」
その時場が氷つくことになった。
「どうしたんですかミケレさんいきなり」
「あなたの計画は楽園計画、うちのエレメナとは記憶の断片であり、重なりあうことで緑陰の魔女に対抗しようとしていた。そうじゃない?」
「え……」
旧エレメナは硬直した表情で唖然としていた。
これはループにおいて禁忌にあたる行為なのではないか。それを私は試しに拒絶してみた。
「バリバリバリ」
「何?」
その時空間がねじ曲がりひび割れる音がした。
「全く、因果に干渉し過ぎだよ。現在の私」
目の前に未来の私が現れた。
「これはいったい何?」
「言ったでしょペナルティよ」
漆黒の異空間に飛ばされ周囲の時間は静止した。私と未来の私を抜いて。
そして目の前の黒は私を飲み込もうとした。
「何であなたが私を助けるの」
「別に敵になったわけじゃない」
「嘘つきなさいよ。私は知ってるよ。あなたが前のループで私を陥れてきたことを」
「悪いけど説明している時間はないの。目の前の黒、つまり捕食者はループの時間をも奪う、早くしないと私もあなたもこの世界から消えてしまうわ」
「そんな」
これが因果を曲げたペナルティというの、ループ能力にまで干渉するなんて。
「これはどうすることもできないじゃない」
「そうね、今すぐに目の前の捕食者を食い止めることが一番大事だわ。私はこんなところでくたばるのはごめんなの」
「それは私も一緒よ!」
「なら手伝いなさいよ。これは精神力の勝負、気持ちを強くもてば、捕食者の手から逃れることができる」
「分かったわ」
未来の私の言われた通り、私は因果律の干渉によって現れた捕食者の力に精神力で対抗する。
まるで魂が抜き取られそうな。強い衝撃を感じる。その場を保つのに精いっぱいである。
「そろそろ体力がつきそう」
「もう少しの辛抱よ。捕食者の動きが鈍ってきた。もう少しおせばいける」
その時捕食者の力が急激に強まった。
「あぶない!」
「ちょっと!」
気づけば私は未来の私にかばわれて、捕食と反対方向に飛ばされていた。
「嘘でしょ!」
未来の私が捕食者の中に飛ばされていくのだった。
「これを受け取って」
そのさなか未来の私は何か私にアイテムを投げてきた。
すかさず私はアイテムをキャッチする。
「何よこれは」
「そこに私の意思を全て反映させた、前渡したブレスレッド以上のものよ。後はお願いね」
「まって」
「まさかこんなところで終わるなんて。これは未来からの贈り物よ」
次の瞬間未来の私が捕食者と共に消え去ったのである。
「私はとんでもないことをしてしまったのかもしれない」
数多のループによりなんでもやり直せるという万能感に支配されていた私。
しかしループごと干渉されるとは思わなかった。
呆然と立ち尽くす中で、徐々に周囲の時間が動き出す。
そのさなか私は、未来の私がくれたアイテムを使用して再び時間を止めた。
未来の私が体験してきたことが今明らかになるのであった。
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