第47話 崩壊
またこの光景かしら。いい加減そろそろ見飽きたのよ。
うつむく殿下の手を取りながら、同様にうずくまる私の様子は正に前回のループと重なっていた。
「またこうなってしまったのですか」
「……」
殿下はすっかり意識を失っている。
「どうすればよいのでしょうか私は」
エレメナの思考。
何? 私は連れ去られているの? ああまた私は殿下を助けることができなかった。
思えば殿下と一緒に入れることこそが幸せだったのかもしれない。何もわからない私に手を差し伸べてくれた、あの時から私にとって殿下は全てだった。
それなのに、私は本当にダメね。
「記憶の断片をとらえたよ」
「ありがとう。流石」
「まあね」
記憶の断片、思えば私の出生は謎に満ちていた。見知らぬ場所で意識を戻して拾われて、守られているだけの人生だった。
ある日殿下に拾われて、寵愛を受けて、少しそれに慣れ過ぎていたのかもしれない。本来私は利用される側の存在なんだわ。
「随分とうつろな目をしていますね」
「まあ、無理もないでしょうね」
「……」
私は自分について多くを知らないのかもしれない。それでも私は私であり、自分の知っている世界が私の世界なのである。
何があったかなんて、知ったことではない。なら私の気持ちを最優先に動くのが一番。殿下と一緒に過ごす平穏な日々の中でこそ私の心の中が満たされる。
その日常を絶対に奪わせない。
「どう? そろそろ始める」
「うんそうだね、早いに越したことはない」
「っ! 放しなさい!」
「これは!」
あたりはエレメナの放つ魔力で覆われた。
「ミフリと博士の姿が見えない。殿下は依然とうつむいたまま動かない。私も喪失感でかなり精神が参っている。果たしてこれからどうすればいい」
動くか。動いても、私の力では何もできない。
今回は何がダメだったのだろう。
「とにかくもっと情報を手に入れなくては」
いつか好転する事態を考えながら私は足をただ進めていた。重くて力が入らないのは確かである。
「何あれは」
顔を上げるとそこは光り輝いていた。
「エレメナ?」
今までこの光景はループでは見たことはなかった。
目の前にはエレメナの力が結界を発生させ、旧エレメナと未来の私の動きを封じていた。
「あなたの力なの?」
中心に核となっているエレメナは、気を失っているのか私の問いかけに応答しなかった。
「やってくれたわね。記憶の断片のくせに」
「どうすればいいのでしょうかこれは」
「こうなってしまっては難しいわ、この回はあきらめることね。もうじきあいつが来る」
「そんな……っ! あれはミケレさん?」
「!」
「エレメナ! 聞いてる?」
「現在の私! ちょっと急なんだけどこれを解除してくれないか?」
「何を言っているの? そんなことするわけないでしょ! エレメナの思わぬ力にはあなたも想定外だったようね」
「対局が見えてないね」
「え?」
「もういいや、次のループで頑張りなさい。私はもうあきらめたから」
「それはどういう……っ!」
ふと背後に何者かが接近していることに気付いた。
「久しぶりね、ひひっ」
「あなたは緑陰の魔女!」
どうしてこいつが今こんなところに……あの日見たのは旧エレメナじゃなかったのか。
「ここから先へ見せるのはあなた達への絶望です」
緑陰の魔女が手を広げると魔力の浸食が始まった。
「何よこれ」
次の瞬間周囲の花による魔力が緑陰の魔女を封じた。
「なによこれ」
「仕掛けておいたのよ」
「未来の私?」
「あなたが来ることはお見通しだったから準備をしてた、でもちょっとこの子のせいで準備不足だったようね」
未来の私はエレメナを見てそういった。
「封が解ける?」
次の瞬間緑陰の魔女が封を解いた。
「これで私を縛れるとでも?」
「まあそうなるわね。聞いて現在の私」
「何よ」
「緑陰の魔女を抑えるには私の計画を遂行する必要があるの。だから邪魔しないで」
「でもその先に殿下やエレメナの犠牲が伴うじゃない」
「ではどう乗り越えろと」
「そんなのわからないわよ」
「まあ、次のループでしっかりと考えることね」
「え?」
次の瞬間緑陰の魔女の広範囲魔法があたり一帯に降り注ぎ、私の意識は途絶えた。
「ああ、またここにきたのね」
見慣れた光景、まっさらな砂漠、ループ能力の回帰が怒るまでのこの時間、私は何をすればよいのか分からなくなる。
「でも前回よりはましかもしれない」
未来の私の目的が見えてきた。緑陰の魔女へ対抗するための作戦、それこそが未来の私の目的である。
きっと色々とあったんだわ。理由を問いたださなくてわ。
「次のループで真相に迫る!」
そろそろ次の扉が見えてきた。思えば今回のループはかなり長かった。一体どの地点に戻るのだろうか。できれば前と同じがいい。
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