第46話 劣勢

王城に向かうと庭園のように花に覆われて人気はなかった。


「ミフリ!」


 最上部へ向かうとミフリが倒れていた。


「おい! 大丈夫か?」


「は、博士、エレメナを止めて」


「これは凄い状況だ」


 殿下が指をさしたその先、最上部から見る花畑の光景は非常にこの世のものとは思えぬものだった。


「どうして式を始めたんだ。神秘結晶はまだ覚醒していないのに」


「ミケレさんがいましたの」


「なんだと、どういうことなんだミフリ」


「未来の私です」


「え?」


「文字通り未来の私ですよ」


「あ、あなたは」


 ローブを掛けた聞き馴染のある声の持ちに主が目の前に現れる。


「なんといえばよいのですかね。分からないですよねミケレさん」


「ミケレさんって……白々しいですよ未来の私」


「ふっ」


 ローブをはずすと、私瓜二つの見た目がみんなの前で披露されることになるのだった。


「あなたが未来のミケレさん?」


「こちらこそあなたが今のエレメナね、記憶の断片、あなたに用があってきたの」


「私?」


 前回のループではエレメナが重なったことで更に花畑の進行が早まった。やはりエレメナは最後のピース。


「エレメナ離れて!」


「え?」


 私はエレメナを押す。


 次の瞬間背後から旧エレメナがエレメナに触れようとしてかすっていた。


「よく気づきましたね」


「エレメナ! 切り替えなさい! 殿下を守るんでしょ」


「え? いったいどういうこと」


 その時楽園の花が殿下にまとわりつこうとしてくる。


「これは、や、やめろ!」


「殿下! させない!」


 エレメナは力を解放して楽園の花を消し飛ばした。


「ああ、貴重な私の力が」


「殿下に手を出すのは許しません!」


「うわああああああ」


 エレメナが旧エレメナを吹っ飛ばすのだった。


「厄介なことになりましたね」


「あなた断片のエレメナに勝てないの?」


「そういうわけではないんだけど、力の性質が同じだからうまく相殺されちゃうんだ」


「そう、じゃあ私がやる」


 未来の私がエレメナの前に立ちはだかる。


「あら未来のミケレ様? 未来とはいえ戦えますの?」


「無論だよ」


「気をつけてエレメナ、未来の私は色々と厄介な能力をもっているの」


「厄介な能力?」


「ええ、とにかく目に見えない角度で変化をさせてくるから気を付けて」


「分かった! え?」


 次の瞬間エレメナの背後が未来の私に取られていた。


「厄介な能力というものは認識してもどうしようもないものよ」


「う、うそでしょ」


「さよならっ!」


「そうわさせない!」


 エレメナの背後をとった未来の私を殿下が押し倒したのだった。


「で、殿下、あなた」


「エレメナには手出しをさせないよ。こう見えて僕は剣術も使える。エレメナに守られてばかりだと思わないことだ」


 未来の私が何を考えているか。私にはわかる。もし自分が殿下に剣を向けられたら、しかもエレメナを守られたうえで、これはかなりのダメージに違いない。


「……ごめんエレメナ、そっちは任せたわ」


「こればかりはどうしようもないものね」


「うわっ!」


 しかし旧エレメナによって殿下はエレメナと隔離された。


「流石に殿下と対峙するのはできないものねよくわかるわ」


「まあそうでしょうね現在の私。分かってくれるなら記憶の断片を渡しなさいよ」


 記憶の断片とエレメナと呼ぶのはあまりにひどいのではないだろうか。


「悪いけど私にとっての記憶の断片は、そっちのエレメナの方なの、あなたとは価値観が根底か違うわ」


「同じ人物なのにこうも意見が割れるのは複雑な心境ね」


「何よ今更、無論ね」


「まあ、無理もないわ。あなたには私の気持ちなんてわかっている様で分かっていないもの」


「何を言っているの」


「あなたにはわかるかしら、削れていく記憶の中で、思い人からどんどん他人扱いされていくこの気持ちを」


「いったいどんな体験をしてきたの」


「私はね、ずっと見てきたの。殿下の悲惨な結末を。だからあらゆる方法を模索してここにたどり着いた」


「何を意味の分からないことを! ミケレさん離れてください」


「うん」


 エレメナが未来の私魔法を放った。


「いったい」


「え?」


 かわすこともなく未来の私は直撃したのである。


「いった」


 次の瞬間エレメナの体がのけぞって倒れた。


「ちょっとループの能力を工夫するればこういうこともできるのよ」


「そんな」


「じゃあ、この子はもらっていくわ。何かあればまた私に連絡を」


「まって!」


「行きつく間もなく私はエレメナをさらわれた」


 こんなのどうしようもないじゃない。


「ミケレ、エレメナ氏がいなくなってしまった。そっちは大丈夫なのか」


「……」


「何かあったのか」


「エレメナが攫われました」


「そうか」


 私たちは二人でうつむきながら悔しさをかみしめた。


「もっと力があれば」


「ミフリしっかりしてくれ」


「博士、私たちは凄い勘違いをしていたのかも。私がエレメナの傍にいてあげれば」



「何も間違ったことはしてない。仕方のなかったことなんだ」


「ああ、ありがとう」


「うん」


 ミフリと博士は花畑の進行とともに全てを覆われた。

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