第39話 業火

「ミケレさん、いったいどうして」


「それはこっちのセリフよエレメナ。本当にあなたには終始心を乱される」


「何の話ですか。それより殿下がどこかへ行ってしまわれました。ミケレさんと話をした後にです。勿論心配の意味もあってここに来ましたが、何かあったのでしょうか」


「はあ……どうでもいいことね。それにあなたも殿下に付きまとわないでくれる」


「なんですかその言い方は、私にとって殿下は大切な人なので侮辱は許しませんよ」


「うるさい!」


「っ!」


 私はイラつきが最高潮に達してエレメナにキレた。


「それはどういうことですか。せっかく心配して様子を見に来たのに、そもそもミケレさん」がいきなり殿下をこんな世界に呼び出したことから意味が分からなかったのですよ。勝手に呼んでおいて殿下を突っ放すなんて理解不能です」


「理解不能なのはこっちのセリフよ。とにかく私に話しかけないでくれる」


「あーあ分かりましたよ。私は殿下の傍にいるまでです。少しは頭を冷やしてくださいね。そして私と殿下に謝りに来てくださいよミケレさん」


 エレメナも怒ってどっかに行ってしまった。





「……」


 このルートは終わりかしらね。どうしようもない、いきなりあんなに怒ったらこうなるのは仕方もない。早く次のループをしたいところである。


「……」




 さらに時間がたつも私は何もすることができなかった。


「おかしい、おかしい、おかしい」


 次のループにはやく行きたい。しかしあまりにも様子がおかしい。ここはどこだ。


 ループ起動には私の命の危険が必要である。そんなこと自分の手でできるはずがない。いやできると思っていたが、実際はまったくできなかったのである。


結局何もできずに私は牢の中で立ち尽くすしかなかった。




 おかしい、流石に外が静かすぎる。というか牢に入れられて、数日が立っている気がする。ポリューシラが来ないのもおかしいし、そもそもミフリの使いが定期的に物資を支給するはずなのに、それもないなんて。


「でもちょうどいいかもしれない」


 どういうことだか分からないが、私はこのまま餓死するのであろうか。なら好都合である。


 私がいる場所は牢の中だった。


 しかし目の前の状況以上に心の閉鎖感が凄い、私は未来の私に裏切られ、殿下に見切られて、大切な心のよりどころを失った。


「……」




 どれくらい時間がたったのだろうか、もうどうでもいい。何もかもすべてどうなってしまっても構わない。




「何?」


 何者かが近づいてくる。外で何かが起こっている。


「近い」


「ぐあああああああ!」


「何?」


 牢の扉は突き破られると、瀕死の兵士が倒れていた。


 兵士の手には牢の鍵がある。私は隙間から手を伸ばして牢の鍵を手に入れた。


「……」


 おそるおそる私は牢の鍵をはずして外に出るのだった。


「何よこれ」






目の前に豪炎に包まれた王城、まさに奈落の底に沈んだかのような壮絶な光景である。


「いったいどうしてこんなことに」


 目を覚まさせられたかのように私はこの光景を目に焼きつけて、意識を戻したのだった。


 歩いても、歩いても同じ光景が目に入る。


 そんな中私は足を止めた。

-

「あれは殿下?」


 殿下のような人影が見えた。途端に私は走り出す。


 周囲は業火に覆われていて、ところどころに何もないところが広がる。そこは燃え尽きて、たくさんの残骸のみが残っているのである。


 殿下は何かを話している。


「やめるんだエレメナ氏! ミフリさんを離せ」


「何を言っているのですか。ここからが面白いところです」


「エレメナ……どうして」


「天からのお告げがあったのです。このタイミングであると。式はこの場で成就する」


「わたくしの授与式をこんなに光景に染め上げて、あなたはやはり魔女ね」


「分かっていたんでしょ。ミフリ、私の本質を」


「ええ勿論、でもこんなに早くだなんてね。何があったのかしら」


「さあ、お告げの真意を知るものはいないだろうね」


「そう」


 ミフリは何か悟ったように目を閉じた。


「さよなら」


 次の瞬間ミフリが旧エレメナに吸収された。


何も見えないただ光輝く夜の元私は目の前の旧エレメナがどこか幻惑的に輝いているように思えた。


「一体君は何をしているんだエレメナあああああ!」


「あら、殿下まだそこにいたのね。ふふふふふふ、ずっとあなたとこうして二人きりになりたかった。邪魔者を消してミフリの計画も取り込んでやっと二人になれたね」


「君は、エレメナなのか」


「見てたんじゃなかったの? 私たちは一人になったのよ」


「何を言って」


「何者だ!」


 その時傍で見ていた私の方向めがけて、エレメナの大声が響き渡る。


「あらあら、迷える子羊と言ったところかしら」


「誰が迷える子羊ですって。言ったじゃないですか殿下、こうなるから嫌なんですって」


「まあ、もう泳がしておく必要もないかな」


「え?」


 その時突然光が辺りを覆ったのだった。

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