第38話 断罪
「どうして未来の私がこんなところに」
「あらあなた言っていなかったの? 並行世界を介しての私の計画知りたい?」
「何よそれ! なんであなたが緑陰の魔女と結託しているのよ」
「それを知るにはもっと工程を踏む必要があるよ私。とにかくこのルートは不正解だね」
「意味が分からないって!」
「お嬢様危ない!」
「え?」
緑陰の魔女の魔法により今度はポリューシラが犠牲になってしまったのだった。
「いやああああああああ」
「幾多の亡骸と対面してよく思い返すことだ。その先に必ず答えがあるよ」
「そんなこと……意味が分からない」
私の視界は一気に暗くなった。
未来の私の思考が入ってきたポートフォリオには、ないものがあまりにも多すぎる事態である。
「ここは」
過去に飛んで二回目のループが発動した。今回の回はかなり長かったため、この空間へは久しぶりにきた気がする。
思えばここへ来るたびに私は未来の私との対面をして心のよりどころを求めていた気がする。
でも今回は少し違う。なぜ未来の私は旧エレメナ、もとい緑陰の魔女と一緒にいたのか。しかも奴は過去の状態でも私の大事な殿下やみんなの命を奪った。絶対に許せることではないのである。
「許せない」
私の心は今までの空洞的な心情とは打って変わって、モチベーションであふれていた。しかしそれは絶対に仕返ししてやるという復讐心である。
私は張り裂けるような怒りを初めてこの時に抱いたのである。
「ゴゴゴゴゴゴ」
周囲の空間がまるで私の心と呼応するように赤く染まっていく。まるで全てが炎に包まれるかのように、復讐の業火である。
「皆さんそれでは今日もよろしく!」
「緑陰の魔女おおおおお!」
ループ完了後即座に私は怒りに任せて目の前の旧エレメナにとびかかった。
「許さない!」
「どうしたんですかいきなり、誰か止めてください」
「落ち着いてくださいお嬢様」
「あなた達」
「放せ!」
私はミフリの兵に捕らえられた。
それから意識が飛んだ。
「ここはどこ?」
目を覚ますと真っ暗な場所に自分がいることに気付いた。
「目が覚めたかいミケレ」
「殿下? 私はどうしてここに」
「覚えていないのかい。君はミフリさんがいるところでいきなり従者であるエレメナ氏に襲い掛かったんだ。当然の結果さ」
「そう……他のみんなは」
「ミフリさんが一人だけという条件を付けてね、交代で面会していたんだけど、ちょうど僕の周期の時に君が目覚めたんだ」
「そう、殿下でよかった」
「それは嬉しい意見だね。さて、いったい何があったのか事情を話してもらえるかなミケレ」
「何があったのかね」
ループで得た記憶のことは因果の関係で話すことができない。旧エレメナが敵であるということを伝えるのに確証的な証拠もない今、私の行動の正当性を証明するのは非常に難しい。
「どーでもいいじゃないそんなこと。あなたには関係ない」
「?」
私はただやり場のない感情をこめて言葉として殿下にぶつけるのだった。
「私がこれまでどんだけ苦しんできたか、殿下にはわからないでしょうね。本当に辛かったのよ。だからこそ私は全力を尽くしてきたのに」
「ミケレ落ち着くんだ、みんなも来てくれるから」
「そもそもアンタが悪いんじゃないの!」
「何?」
「公爵令嬢で婚約者でもある私を差しおいて、エレメナなんかと一緒に戯れて、許せないのよ! それにそれにそれにそれに、あなた私を婚約破棄しようとしていたんでしょ!」
もはや理性は消えた。感情によって発言のリミッターが外れたことで、心の中の底にあった思っていたことが一気に発散されるのであった。
「ミケレ、悪いが僕はエレメナを本当に大切に思っているんだ。だから君だけを大切にするなんてことはできない」
「ふざんけんな、そんな都合がいいことがあるか!」
「僕はここ最近の、この世界に来てからの君を見て、結構見直していたんだ。ミケレ、君がひたむきにみんなの調和を望んでいて、そこら辺の権力者と違うってことを。君なら身分が低いエレメナのことを悪く思わないんじゃないかって。
「だから何」
「だけど君の口からそんな言葉が出ると思わなかった。少々僕は君を買いかぶっていたみたいだ」
「何を」
「あとは好きにするといい、僕はエレメナと一緒に引き続きミフリさんを手伝う」
「何その言い方!」
「じゃあね」
殿下は私の方から視線をそらして、その場を去っていった。
「お嬢様?」
この声はポリューシラである。一体何を思って今の私のところへ来たのだろうか。
「大丈夫でしたか。私凄く心配してしまって」
「あなたは相変わらずそうね」
「ええ、当り前じゃないですか。私はいつまでもお嬢様の味方ですので」
「そうね」
流石私の自慢の侍女、いまだに私の味方をしてくれるだなんて、
「殿下達と何があったか私には分かりませんが、私はきっと何か理由があって今の状況になっているのだと思います」
「そう」
しばらく沈黙が流れる。ポリューシラも何をすればいいかわからないといったところだろうか。
「ごめんなさい。ちょっと一人にさせてくれないかしら」
「そ、そうですね。私も本当に考え足らずで、何をしていいか、今はそれがお嬢様にとっていいことなのかもしれません」
私は立ち去っていくポリューシラを見て申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさい」
気遣いをしてもらっているのか、只今の私の心は完璧に閉じふさがっているのだ。
あんなことをしてただで済むはずもないだろう。私はもうじき断罪されるのだ。この世界は私にとってどうでもいい周回、ならばこのままずっと目を閉じておけばいいんじゃないか。
暗闇の中で完全に沈みかかった状況の中で、再び扉が開くのだった。
「エレメナ」
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