第37話 緑陰の儀式

「真に考えるべきは来るべきタイミングが来たときにどう対処するかです。今回の神秘結晶覚醒はとても普通に過ごしていては起こりうるものではない、何かきっかけがいるに違いありませんね」


 魔力供給の場所に到着すると、旧エレメナはそう話す。


「つまりそのタイミングが来るまで僕たちは進展をすることができないといったところかな」


「それもそうですね」


「しかしそのタイミングというのは何か、心当たりとかあるのですか」


「年に一度、ミフリ様の決断式が行われます。統制の意を示す、ミフリ様の決断の儀、今年は何か大きな動きを起こすといっていましたが、その時に神秘結晶は光を見せるに違いありません。その日が一番動きを見せるのに最適かと」


「そんな式があるのか」


「その前に皆様にはこの場で秘伝書を見てもらいたくてここに案内いたしました」


「秘伝書」


 意識をせずに私たちは旧エレメナの案内を受けていたのか。


「それは私がミフリさんから受け取った秘伝書とは違うものなのかしら」


「ええ、そうですよ。非常に違います。だからこそ見てもらいたいのです。何せこの秘伝書は私の家の魔術石碑に記されていた秘伝のもの、ミフリ様にも秘密にしていたのですから」


「どういうこと?」


 私は目の前の旧エレメナの行動が全く分からなかった。


「つまりあれか、ミフリ様に忠誠を誓っていた君は実は何か隠しごとをしていたということなのか」


「すいません。ミフリ様にこの秘伝書を知らせてしまうと、いろいろと不具合が生じてしまう故」


「不具合とは?」


「すべては今から話す秘伝書の中によりわかるでしょう。さあ入ってください」


 私たちは旧エレメナの案内してくれた秘伝書のある場所に向かった。











「ねえ、エレメナ氏どこまでいくの」


入り組んだ通路を進んでいく、旧エレメナに私は疑念を抱いた。


「ここらへんでいいですかね」


 文字が描かれている通路で突然旧エレメナが立ち止まる。


「これはいったい何だいエレメナ氏」


 殿下が質問を投げかけると、異常な速さで旧エレメナがこちらへ振り向いた。


「秘伝書に記されしは神秘結晶の解放は2人のエレメナによって行われる」


「?」


 突然様子が豹変した旧エレメナの様子に私たちはみな困惑した。









「どうしたのエレメナ氏、いきなり変なことを言って」


「……」


様子がおかしい、私たちは長いやり取りの中で重大なことを忘れているのではないだろうか。この旧エレメナは昔の緑陰魔女……この雰囲気はもしかしてやっぱり。


「殿下! エレメナ氏から下がって!」


「どうしたんだミケレ?」


「そうですよ、別にちょっとエレメナ氏の様子がおかしいだけじゃないですか」


 エレメナが旧エレメナに近づく。


「いやああああああ」


「エレメナ!」


 その時旧エレメナにエレメナが手をつかまれた。


「私から離れて? 無駄なことですよ。なんせあなたたちはこれから私に浄化されることになるのですから」


「何をしているんだ! エレメナを離せ!」


「まさかあなた、最初から私たちのことを狙っていて……」


「ふふふ、やっと気づいたの、想像以上に役に立ちそうだったから生かしてあげたけど、まさか神秘結晶までミフリから奪ってくるなんてね」


「やはりあなたは緑陰の魔女! 昔から何も変わっていなかったんだわ」


 遂に正体を現した旧エレメナ、その表情はまさに緑陰の魔女、私たちを幾多も苦しめてき

た緑陰の魔女だったのである。


「あなたやっぱり悪者だったのね」


「あらその言い方だと私の真意を見抜いていた様子だけど」


「こちらの世界でもあなたのような存在を知っているの」


 うかつだったやはり緑陰の魔女の性質は同じだった。


 しかし名前はエレメナでこっちのエレメナと関連があるということはこちらのエレメナも危ないのではないだろうか。


「危ないミケレ」


「え?」

 

 その時私を押しだしてきた殿下からいきなり血しぶきがほとばしる。


「何よ……これ」


 次の瞬間一瞬だけ私の意識が遠ざかった。




 私たちは今どこにいるのだろうか。何もない場所の中に淡々と頭の構想のみが浮かび上がって行動することになっている。


「これこそ理想形です」


「いやああああああああ」


 殿下が私をかばってくれた。私は助かったのだ。しかし殿下は身代わりになったことで、無残な姿になっていた。それを見た私はただただ悲鳴を上げるのだった。


「ごめん、みんな」


「お前ええええええええ!」


 真っ先に怒ったのがエレメナだった。力を解放して旧エレメナに襲い掛かる。


「このタイミングね。過去と未来を統一する」


「何よこれ」


旧エレメナとエレメナの魔力が共鳴している。まるで二つの力が作用しあっているかのように、互いに光が放たれるのであった。


 凄まじい力と反作用の相互作用によって、あたりが振動した。


「エレメナ!?」


 光が晴れるも、気が付くと目の前からエレメナが消えていた。


「あなたその姿はいったい」


「お披露目と行きましょうか。ねえミケレさん」


 姿が変化した旧エレメナ、手から何を手繰り寄せるようにすると、空間から何かが出てくる。


「あなたは」


「久しぶりね」


「未来の私!?」

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