第35話 ライバル

「皆様今回はありがとうございました」


 博士の元を去った私たちはミフリ様に呼び出された。


「本当に博士があそこまで私に焦った様子で連絡してきたのは初めてで驚きましたよ」


「どんな感じに連絡してきたんですか」


「それは凄い焦りようでしたよ。是非私のラボで研究したいとか言っていましたが、皆様は私にとっても重要な存在であり、丁重にお断りしましたね」


「流石ミフリ様です」


「でも博士は結構執念深い人物ですから皆様は警戒した方がよいかもしれませんね」


「なんですかそれは」


「ラボへの執念が凄いんですよ。何人か犠牲になっているんですよねエレメナ」


 旧エレメナの方を向くと凄く後ろめたそうな表情をしていた。


「私はできれば思い出したくありませんね」


「何があったのよエレメナ氏」


 ぞっとした表情で、エレメナは旧エレメナに問いかけるのだった。


「まあ、僕がいればそんな気にする必要はないだろ」


「流石殿下」


「そうですね、皆様なら大丈夫な気がします。とにかく次の依頼も明日お願いするのでよろしくお願いいたします」



 


「ミケレさん、随分とおとなしいようですが、体調がすぐれない感じでしょうか」


 部屋に戻った私をエレメナが気遣ってくれた。


「別にそういうことではないわ。ただちょっと疑念が頭を駆け巡ってね」


 なぜあの時緑陰の魔女が現れたのだろうか。それに全く現れなくなった。何かあいつが現れるのにはトリガーのようなものがあるのではないかと思い始めている。


「そうですか、正直殿下に寄り添う私を目の敵にする視線が以前はあった気がするのですが、そういったものを今のミケレさんには感じられなくなっていました。ライバルが減った感じがしてそれはそれでいいですね」


「そうね」


「そこはそうねじゃありませんでしょ!」


 いきなりエレメナが声を大きくするのだった。今この部屋には私とエレメナしかしない。殿下とポリューシラは旧エレメナと一緒にミフリ様と事務的な話しているのだった。


「ミケレさんと私のライバル関係、これがあるから面白いんですよ」


「いきなり何を言い出すのエレメナ、あなたそんなキャラだったかしら」


「それはこっちのセリフですよ」


「はあ、ごめんね、色々ありすぎてね」


「正直ミケレさんの考えは全くよめません。ですが私は殿下のために動くまでです」


「あらずいぶん強気な言い合いじゃない。私は公爵令嬢なのよ」


「すいません」


「ふふっ、冗談よエレメナ、あなたに殿下は渡さないわ」


「その感じです。それでこそミケレさんだと思いますね」


 私たちは微笑みあった。


 その夜、やはり緑陰の魔女の襲撃はなかった。




「皆様、ミフリ様から新たな指令が来ますよ」


「そうですか」




「これは何ですか」


 私は、ミフリに手渡されていた神秘的な結晶を見る。


「これは神秘結晶です。内には永遠の魔力が宿されています」


「どうしてこれを」


「解放できる存在を私は求めています。神秘結晶は封印されている。これを解放することが、次のお願いなのです」


「分かりました」


「キーとなるのは以下の伝承ですのでよく聞いてくださいね」


 私は秘伝書を渡された。それにはこう記述されていた。


記憶が閉じれば世界も閉じる。声を聴けば祝福が消える

思考が増える、より良い方向に向く、私の声を聞け

分裂した意志を元に、記憶を束ねれば、物語は再び進む

進み続ければいずれ完結する

啓示による祝福、それを示せ





「殿下、神秘結晶への関心がかなりおありのようですね」


「ああ、これは僕の王室に設置されていた結晶にとても酷似している。用途は分からなかったが果たしてあれは何だったのだろうか」


「誰か来ますよ」


 エレメナが何者かが来たことを察知する。


「はっ、神秘結晶まで渡すとは、どこまで愚かな娘よ」


「あなたは宰相!?」


 しばらく見なくて存在を忘れそうになっていたが、この宰相も物語の重要人物である。


「お前ら勘違いするなよ。本来その神秘結晶をもらうのはこの私だったのだ。まさかぽっと出のお前らに渡すとはミフリの奴も血迷ったものだな」


 随分嫌われてしまったようだ。

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