第31話 祝福
「追跡者か、それはどういったものなのかな」
「緑陰の魔女は知っていますか」
「知ってるよ、お尋ね者だ」
「実はそれが」
「成程……なら僕といても確かめることがある」
「何か思いついたのですか」
「まあね、ミケレは見ててくれよ。エレメナにも伝えておく」
旧エレメナを見てエレメナは少し黙って発言する。
「その反応ですと何か知っているのですか」
「え、ええ、私の持っていた先祖の書庫にその名を観ました」
先祖書庫とは凄い情報です
「教えてくれますか」
「勿論です。ここまでしてくれた皆様に報いさせてください」
私たちはエレメナ氏の書庫を尋ねた。
「書にはこう記されています」
緑陰の魔女、エメラルドの輝きを放つ、深緑の力の象徴。
その力に触れたものは源泉的に緑を生み出すことができる。
内に秘めた魂を解放すれば、力を解き放ち目の前の敵を殲滅する。
力を解放するのは何か大事なものを守る時。
その時分離が発生する。
「とされています」
「大事なものを守る時、分離発生する」
「よくわかりませんね」
「まあそうね」
と言いつつも私の頭の中に一つの可能性が浮かび上がった。
大事なものに捧げるというのは、どこか既視感を覚える。
「しかしそう考えるとエレメナとエレメナ氏の関係性も気になるところだね」
「殿下、その件は考えないことになっていたはずなんですが」
「そうか、でもやっぱり状況は変わってきているよ。僕たちもかなりのものを差し出しているわけだからね、結構深堀していいと思うんだ」
「そうですかね」
殿下は旧エレメナを尋ねる。
「2人のエレメナ、やっぱりどうも無関係ではないと思う。それに伝承の守る力というのも非常に気になるところである。エレメナは自分の力に何か心当たりはないのかい」
「私の力は、突然覚醒したのです。身分も高くない私の歌に向き合ってくれた殿下、その時なんというか心が凄く熱くなって、力が発動しました」
「歌ですって?」
旧エレメナが殿下とエレメナの会話にかなり食いつてくる。
「ああそうだけど、そうかエレメナ氏はエレメナの力をまだ見たことがなかったね。彼女の歌はとにかく凄いんだよ」
「歌に関して伝承があります」
「そうなの」
「実は分離した先の声に魂が宿り、それを祝福に昇華するだとか」
「ってことはやっぱり私は何か関連性があるってことなのでしょうか」
「分かりません。ですがその可能性が高いです」
「そうですか」
「まあ、考えたところで仕方がないでしょう。もう少し様子を観ましょうか」
私たちは城に戻った。
「皆さんご苦労様でした。かつてないほど、魔力供給が行われたと認識しています。本当によかった、次の会議で大きな力を見せられそうです」
「はい」
ミフリはかなり嬉しそうである。
「しかし会議とはなんのことなのですか」
エレメナが小声で旧エレメナを尋ねる。
「定期的にミフリ様と近しい身分の方同士で方針を照らし合わせるのです。信憑性がある人の意見が反映されるので、ミフリ様にとって、会議は非常に重要となります」
「成程」
「そうです! せっかくですから皆様にも会議に参加してもらいたいのですが、如何でしょうか?」
「え?」
まさかの方向に事態は傾きそうなのである。
「いいですね。僕たちもぜひ参加させてください」
「殿下!?」
「悪いねミケレ、僕はこういった部分にはかなり自信があるんんだ」
「そうなのですか、では殿下に任せます」
「ああ任せておけ」
凄くこの時私は殿下が頼もしく見えた。
「素晴らしい心がけです。明日期待していますよ」
「はあ、今日も一日を何とか乗り越えられました」
「お嬢様は頑張りすぎなんですよ。私に今度は任せてくださいね」
「ポリューシラあなたが傍にいてくれた助かるわ」
部屋に戻った私たちは就寝前に今日会ったことを振り返る。
「殿下、あまり無理をしないでください。会議への参加も別にやる必要はなかったのでは」
「分かってないなミケレ、僕がここに来た理由は何か答えを探しているからなんだ」
「答え?」
「ああ、僕は平凡な日常に飽き飽きしていたんだ。だからこそ、こんなに僕の思い描いたような刺激的なイベントが体感できるなんて、素晴らしいことだと思うんだよ。だから全力で僕もそれにこたえたいと思う」
「殿下」
私はやはり殿下という人物が何を普段考えていたのか、全く理解していなかったようだ。普段周りのしきたりに合わせて接していた私も、今の殿下の本心など考えたこともなかった。
「私は殿下の意思を前から知っていましたよ」
「ありがとう、いいかい? 奇跡は必ず訪れるものだ。僕は絶対にこの状況を覆してみせる」
殿下の言葉はいつも心の中に強く訴えてくることがある。私は婚約破棄をされてからその言葉の強さに心を砕かれた。しかしこんなにも味方の立場であるということが心強いのだと感じられるのだった。
「明日は期待しかありませんね」
気が付けばそんな言葉が零れ落ちていた。
「無論だよ、その気持ちのままで問題ない」
私は緑陰の魔女の襲撃に警戒しながら、次の日に備えた。
そして何も起きぬまま翌日になった。
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