第30話 カリスマ

2人の説得は正念場であった、成功したものの精神の消耗がとにかく凄い、しかしまだ気が休まることはないのである。


 再び私はミフリの元へ向かった。


「どうでしたか決めました」


「いいですよミフリさん、あなたの要望を受け入れましょう」


「大変良いことです! 引き続き皆さんには私の元にいてもらいます」


 凄くうれしそうである。



 


 それから私たちの部屋に旧エレメナも一緒にいることになった。


「皆さん本当にありがとうございました」


「頭を上げてください。私たちの相違のものですので」


「そうだよ僕たちも協力するさ」


 みんなも頷いてくれた。


「ミケレさんのあんな表情を見てしまったら、断ることができません」


「流石お嬢様だ」


「本当にありがとうございます。この恩は絶対にお返ししたいと思います」


 緑陰の魔女の面影も感じられないし、エレメナとの関連性も感じられない旧エレメナ、そもそも旧エレメナという表現紛らわしく、本当にいまだにこんがらがりそうな相手である。




「エレメナさんはどうしてここにおられるのですか」


「ええ、ミフリ様が皆様と親睦を深めるべきだと提案したのです。ミフリ様は王宮内の権力争いを制した、その切り札として私を認めてくださいました。皆様も私と同じ立ち位置にあり、だからこそ皆様は本当に大切な存在であるのです」


「そうなの」


 私はふと旧エレメナが辛い思いをしているのではないかと思った。それにミフリは旧エレメナ一人にここまでの負担をさせてなんとも思わないのだろうか。


 そんな中で殿下が口をはさんでくる。


「ミフリ様は少々エレメナ氏のことを酷使し過ぎではないかと思われる。こんなに辛い使命一人で背負うのはさぞ辛かったことでしょう。僕は胸が痛いよ」


「エレメナ氏!? いえ、ご心配いりません。私が進んで行っていることですので」


「ああ、すまないうちのエレメナとの違いをつけるためだ。それにエレメナだって私と同じ気持ちだろう」


 じっと静かな様子でこちらを見ていたエレメナがふと顔を縦に振る。先ほど珍しく感情的になっていたことを憂いているのだろうか。


「勿論ですよ殿下、ただエレメナ氏の気持ちも私には凄くわかるのです。忠誠を誓った相手に対する、最大の敬意、私にとって憧れしかありませんわ」



 なんだかすっかり氏をつけて呼ぶのが普通になっていないかしらね。


「そうかわかったよ。しかし2人のエレメナは何か共通点があるのかもしれないね」


「え」


 殿下が遂にその件に触れたのである。


「やっぱり二人には何かしらの関連性があるに違いないと僕は思うよ。エレメナという名前は本当に珍しいと思う、偶然同じだったというだけではあまりにも偶然過ぎると思うんだよね」


「そ、そうなんでしょうかね」


「そうだよ、当然だからこそ僕は2人にはもっと深くお互いを知ってもらいたいなと思っている」


「で、殿下がそういうなら」


「わ、私は全然エレメナ様と仲良くなりたいと思っていましたし」


 エレメナは旧エレメナのことを魔力供給のことで少し嫌悪感を見せていたのだと思う。それでもここまで良くしてあげるというのは本当に凄いことなのではないだろうか。流石は殿下である。


「さて、今日は随分と長いこと話したね。モヤモヤも晴れたと思う。また明日に備えようか」


 流石のカリスマ性を見せる殿下、ここまでバラバラだった意志を一つにまとめたと思った。





「お嬢様、しかしながら随分と思い切った決断をなされたものですね。魔力供給は明らかに私たちにとっては不利な契約ですよ。本当に大丈夫なのでしょうか」


「そうね、きっと大丈夫ですわ」


 私にはリセット能力がある。いざとなればどうとでもできるのである。


「私はただお嬢様についていくだけですので。何かあれば言ってくださいね」


「わかった」


 長い思考と決断を促された一日がやっと終わる。何か確実に未来の私が望んだビジョンに近づいているのではないか、そういった気持ちになった。


 




 その夜、私は緑陰の魔女の襲撃を警戒したが、特に何も起こらずに朝を迎えた。


「皆様今朝はご無事で何よりです。本日の魔力供給もお願いします」


 定例的に私たちはミフリに呼び出される、しかし今回に至っては今までにないほど鬱々しさを感じた。


「……」


「あら、反応なしですか。随分と嫌われてしまいましたね。しかし構いませんよ、エレメナ案内を頼んだわ」


「分かりました、皆さんまたこないだの場所に行きますよ」


 こないだの場所とは魔力供給所に違いない。




「ミフリ様、いかに」


「もう少し様子を見る必要がありそうですね」


「分かりました」




 魔力装置の場所に向かうと動悸がする。嫌な感じである。なぜ関係のない人によくするためにここまでの力を使わねばならないのか。本当に難しい状況である。


「皆様魔力を固めてください、吸い取られる際に意識をしておかないと、結構きついですよ」


「いやあ、こういうの苦手なんだよね僕」


「私もそんなに好きじゃありませんね」


 階級が多くなるほど魔力量が大きくなるため、殿下は魔法はあまり使えないが魔力量だけはかなりのものである。一方エレメナは階級がそれほどなのに魔力量は異常である。


「2人とも随分余裕そうじゃない、私なんか今にでも倒れそうよ」


「お嬢様、辛かったら私が肩代わりしますのでいつでもお申し付けください」


 何を言っているのかポリューシラは、私より魔力量が少ないくせに随分無理しちゃって。


「それはお断りだわ。自分の心配をしなさい」



「了解いたしました」


「いいですねそれ、殿下私にも何かあれば肩代わりしますので」


「あいにくだけどそれはお断りだよエレメナ、僕を見くびらないでもらいたいな」


「流石です殿下」



 引き続き吸収されていく魔力の数々に休まる暇もない。


「箱が動き出したよ」


「箱?」


「うん、制御装置だ、いつも以上の動きをするから、これは本当に凄いことだよ」


 旧エレメナはよっぽど今まで大変だったのか、工程の高速化に感動したような表情を見せていた。


 それから少しして私たちは魔力供給を終えた。


「これは本当に素晴らしい終わりだったね。みんな本当にありがとう」


「いやいや了承済みなことさ」


 殿下はかなり息切れをしているようである。


「殿下! ダメですよあなたがこんなに疲労しては!」


「……まあそろそろ聞こうかな」


「え?」


「手伝ったから、今度はこちらのお願いも聞いてくれるかなエレメナ氏。君は緑陰の魔女について知っているかい?」


「緑陰の魔女!?」


 辺りに静寂が巻き起こるのであった。

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