第29話 分かってもらうのは難しい
そう話していると、目の前に装置が現れた。目的地に着いたようだ。
「お察し通り魔力生成には元となる魔力が必要となります。私は今定期的に魔力を注ぎ込むことで、生成が完了する、皆様にも手伝ってもらいたかったのですが」
「おふざけはおやめください。私はやりませんよ」
「すいません」
エレメナが旧エレメナに怒った。確かに魔力は大切だからね。
「ま、まあエレメナそんなに怒るなよ。こっちの世界のエレメナも大変なんだ。君は魔力を人のために使うのでいいのかい」
「ミフリ様には恩があります。私はそれに報いなくてはなりません」
たどり着いた魔力生成の部屋で旧エレメナは魔力生成装置に手をかざす。
「この身はミフリ様へと捧げる力、その使命から逃げるつもりはありません」
「……」
なんだろう、エレメナはどっちにしても一途というか使命に向かってひたすら自分を投じようとしている。何かそういう性質でもあるのだろうか。
「終わりました。今日の分はこれにて完了です」
「結構辛そうだったけど大丈夫?」
「別に大丈夫ですよこれくらい普段通りですね」
「私たちも手伝ってあげたいけど、魔力供給は流石に厳しいかも、周囲の整備とかならできるかもしれないね」
「それじゃあ、お願いします」
ちょっとミフリのことが嫌いになりそうかしらね。私たちにこんな光景を見せて嫌な感じになるのは当たり前じゃない。みんなの表情も少し複雑である。
「お嬢様、これは中々ミフリ様に尋ねる必要がありそうではないですか」
「そうね、エレメナを酷使し過ぎかもしれない。今度一緒に尋ねてみましょう」
少し旧エレメナと離れた場所で私はポリューシラと意見交換をした。
「皆様そろそろ戻りますよ」
「そうですか皆様魔力は流石にダメでしたか」
私たちはお城に戻った。
「当り前じゃないですか。魔力は貴重なんですよ」
「そうですね。魔力は貴重なものです。しかし魔力を誇示しなくては平穏の逸脱からは免れません」
なんだろうミフリさんの目つきが少し怖くなった気がする。
「私は王女として時には非情な決断をしなくてはならないと思っています。皆様と出会ったことは本当に非常に幸運であり、運命的なご縁だと思うのです。しかしだからこそ私はこの機会を逃すわけにはいかないのです」
「ミ、ミフリ様それは」
「どういうつもりですか」
うろたえる旧エレメナを無視して、ミフリは私たちに剣を向けてきた。
「少々立場を分かってもらいたいと感じました。皆様にはもう少し縛りを強くさせてもらいます。ここに滞在する条件として、定期的に魔力供給を義務といたします」
「ふ、ふざけてます。だったらここを出ていきますね」
「そ、そうだよ。ミケレもう帰ろう。こんなところにいても意味ないって」
「――」
いや、今帰っても緑陰の魔女の魔の手からは逃れられない。恐らくこのミフリも何やら一枚岩ではないのであろう。崩壊において宰相は一端にすぎなかったんだ。だから根本的な問題を解決しなくては殿下を救えない。
私は強くこぶしを握り締める。
「いいでしょう、その提案を受け入れますよ」
「本当ですか!」
「ちょっと、ミケレ様!」
「その前にちょっと話し合いの時間をください」
「いいですよ。どうやらかなり独断の様子ですので」
「――」
「はあ? はあ、は、はあ?」
エレメナの表情を見るとかなりイラついているようであった。
「どうしてですかミケレさん! 私はこんなところで殿下の力を使うつもりはありませんよ」
「僕からも苦言を呈させてもらうよミケレ、婚約者として君のことが心配でここまで来たが、まさかこんなことになるとはね、僕たちは帰らせてもらうよ」
「――」
まあ無理もないであろう、殿下達はこれから帰って起こるあの悲劇を知らないのである。よくポリューシラも私の味方でいてくれるものだ。
「帰ったらもっとひどいことになりますよ」
「なんだって」
「殿下だって追跡者の存在を知っているんじゃないの?」
「なぜ君がそれを……でも正解だ。確かに追跡者の痕跡の話はでている」
「だったら分からないのですか。」
「見くびってもらっては困りますよ。殿下には私がついています」
「ありがとうエレメナ、それもそうだし、信憑性に欠ける情報だな」
私は2人の説得が予期せぬ方向に向かっていることに気づき始めた。
「――難しいですね。説得が」
「ミケレ?」
私は気が付けば涙を流して殿下とエレメナの前で笑顔になっていた。
心の中にある張り詰めたひっ迫感が知らぬ間に私を侵食していた。
その果てに今の表情が生まれたのである。
「苦しいです。助けてください。ただそれだけしか言えません」
「ミケレ、君はなんでそんなに苦しんでいるんだ」
「ミケレさん、私もお聞きしたいです。何か事情があるのですか」
「ごめんなさい、言えないの、言えないこともできれば言いたくない。でも信じてついてきてもらいたいの」
未来の私はいつもこんな気持ちなのだったのだろうか。今になって思うのが本当に申し訳ないことをしたと思う。
「――」
しばらく沈黙が続く、殿下とエレメナは今あらゆることを思考しているのだろうか。2人の息はかなりぴったりであり、ふと互いに見つめあうと何かを決めたようにうなづきあっていた。
「いいよ、ミケレ協力するよ」
「私からもそうさせてください、ミケレさん」
二人の返答を聞いて私の心は喜びに満ち溢れた。
「2人とも本当にありがとう」
私の気持ちは何とか二人に伝わったようで本当によかったのだと思った。
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