第27話 より戻し

 この世はより戻しのようにできているに違いない。今の私ならわかる、そんなに都合よく事が運ぶことはない、うまくいくことには必ず、より戻しが起こり警戒をしなくてはならない。それは今の私に身をもって知ってもらうしかない。



「殿下?」


 その夜私は殿下とエレメナ、そしてポリューシラと同じ城内の部屋で就寝をしていた。目を覚ますと殿下がいなくなっていた。


 そして異様な気配を感じるのだった。

 

「あ、あなたは?」


「世の中そんなにうまくはいかないものだよ、お嬢ちゃん」


「嘘……」


 緑色のローブを着たその怪しげな風貌を私はよく知っている。しかしここは時計塔でとんだ時間軸の世界。目の前の情報は明らかにあり得ないものである。




「時空を超えてこんにちは」


「ふざけるんじゃない!」


 そう叫ぶといつもの砂漠の空間が広がっていた。


 いや今回は荒廃した建物もそこにはあった。


 ループが発動したのである。


「どういうことよ。なんであいつがこっちの世界にまで」


「――」


 そういえば未来の私はもういないのね、この場所いる意味も薄れてきた気がする。


 次の瞬間凄い脱力感に襲われた、私は気を張っていたのである。


未来の私と別れてから、自分だけで現状を変えてやろうと後先を考えずに体が切れるほどの勢いで向かっていった。その結果がこれである。


「救いようのない話ですわ」


 これだけ頑張って気を張っていたのが切れてしまったため、精神は元の状態に戻ってしまった。


未来の私がいない状態は、まさに命綱をつけていない状態で、崖の上の細い橋を渡るような感覚である。


「誰か助けてよ」


「――」


 しかし未来の私が戻ってきてくれることはなかった。





「はあ」


 意識が戻る、果たしてループはどこへ戻るのであろうか。と言いつつも私の精神はもうボロボロなのであるが。


「お嬢様どうなされました。突然表情が硬くなりましたが」


「え?」


 ふと意識を戻すと、私の目の前には2人のエレメナとミフリ、そしてポリューシラと殿下がいた。


「よかった」


 ちゃんとポイントは更新されていたようである。それもかなり早い段階だ。


「どうしたんだミケレ、さっきから呆然としているよ」


「だ、大丈夫ですよ殿下、それより引き続き話を進めていきましょう」


「話ならもう終わりましたよ、これから解散という流れになっていましたが」


「そ、そうですよね。すいません何か突然」


ということは話し合いが終わった時間軸ではないだろうか。いやこのまま解散は不味いかもしれない。


「エレメナさん!」


「え?」


「はい?」


 名前を呼ぶと2人のエレメナがこちらを向いてきた。紛らわしい。


「じゃなくて、こっちの世界のエレメナさんです」


「あ、すいません」


「はい、どうしました」


「今夜は何か予定とかありませんでした」


「いいえ、別に」


 まあそうなりますわよね。


「分かりました! なんでもござません」


「ミケレさんどうかいたしましたか」


「いえいえ、ちょっと嫌な予感がしましたので、よろしければ私たちの部屋に夜中見張りをつけてもらえませんか」


「勿論です。何か悪い気を察知したのですね。流石は予言の方々だ」


「ありがとうございます」


 


 こうしてミフリさんの物わかりの良さから私たちの部屋には護衛がつけられた。しかし緑陰の魔女相手ではただの護衛では力不足感がある。ミフリさんに頼んで緊急察知装置を用意してもらった。


「これなら増援が期待できる」


「しかしミケレ何をそんなに警戒しているんだ」


「殿下は追跡者の存在を覚えていらっしゃいますか」


「追跡者か、確かに認知はしているが、その存在が本当かどうかは定かではない気がするな。僕たちにとってしかもそれは今考える必要のないことではないかな」


「といいますと」


「今僕たちがいるのは過去の世界だ。その追跡者のいる世界とは違う、うん? でもそんなことを僕に聞くっていることは、ミケレがその追跡者がここまで来ているってことが言いたいのかい?」


「確信はできませんが恐らく」


「そんなこと私が許しませんわ!」


「エレメナ!」


 私たちの話を密かに聞いていたのか。


「殿下に迫る危険を回避させるのがこの私の使命です。この力は殿下のためのもの」


 このセリフは何回も聞いたことがある。でも駄目だよエレメナ、あなたのその力では殿下を救うのには届かない場合が多い。


「エレメナにそんなことはさせないさ」


「一先ず今夜はかなり正念場になりそうです。皆さん気を引き締めてください」

 

こうして私たちは来るかもしれない襲撃者を警戒しながら就寝時間を迎えた。

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