第23話 演説

「しかし随分と人混みがありますね」


「ええ」


 店を出ると中央広間にでた。そこでは何者かが演説を始めている様で、その人物を中心に人だかりができていた。


「皆様、いずれこの場所は瓦礫と化すかもしれません。王国の魔力を供給はいずれ途絶えようとしています。早急に手を打たなくては手遅れになりますよ」


 あの人物は確か宰相ではないかだろうか。おとぎ話に出てきた魔女を追い詰めた宰相、こんなところで何がしたいのであろうか。


「ぎゃははははは、頭がおかしくなってしまったのか?」


 中央広間での演説など普通に考えたら、変である。身分も隠しているようですし、ただでさえ変なのに話す内容が吹っ飛んでいるものでは多くの人に笑われるのも無理もないですわ。


 中には対話をしようとしている者もいるようですが。


「悪いけど、あんたの言っていることは理解に苦しむぜ」


「すぐに理解できるとは私も考えておりません。いずれこの言葉の意味が分かる時が来るでしょう、来るべき式典にあなた方は全てを知ることになるのです」


 そう言うと宰相はその場を立ち去って行った。



「来るべき式典の時とはいったいどんなことなのであろうか」


「お嬢様、どうもこの世界の話は私たちが知っている世界とは大きなそれがあるに違いありませんね」


「確かにそうですよね。少々大変になりそうです」


 とはいえ進むだけである。


「宰相を追ってみましょうか」


「分かりました」



 場所はお城の中、宰相は演説の周囲の反応に部下の前で愚痴を漏らしていた。


「ふん、私の壮大なビジョンも分からぬ馬鹿どもめが」


「宰相様、ミフリ様がお呼びです」


「ふん小娘が、また私に何か追求しようというのだな」


「宰相様、ミフリ様にそのような言い方はっ!」


 その時ほかの見張りとは少し模様が違った服を着た女性が宰相に近づいてきた。


「お前消えろ」


「き、貴様、アリエラ!」


「私、あなたのこと、しっかりとみてたから、このことはミフリ様にしっかりと報告しておくわ」


「や、やめ」


「もう遅い」


 アリエラの追及に宰相は表では見せないような、取り乱しぶりを見せるのだった。



 宰相というのはもう少し堅いイメージがありましたが、随分と親しみやすさをみせるものですね。


「ミケレ様、こっちに宰相が来ますよ」 


「分かってる」


 私たちは王宮に潜入し、宰相をつけていた。元々王宮にいる令嬢の恰好をしていたため、そこまで怪しまれることはなかった。


「全く恐ろしい目に合ったものだ。うん? お前たちそこで何をしている」


「いえ、私たちはただ、ここで雑談をしていただけですの」


「ああそうか、くれぐれも怪しまれそうな行動をするのは控えることだ」


「ありがとうございます」


 そういうと宰相は去っていった。


「はあ、何とかごまかすことができましたわ」


「お嬢様、口数がいくらんでも少なすぎですって」


「少ないくらいがいいのよ、無駄な口を叩いたらそれこそ取り返しがつかなくなる」


「そうですか」


「さてこれからどうしたものかしらね」


 宰相に顔を見られてしまったため、ヘタな動きはもうできない。


「一先ず宰相からは離れましょうか」


「緑陰の魔女の動向が気になりますね」


「確かに、あの子今頃何をしているのかしら」


「確か童話では、姫様の部屋で密かに対面しているという話でしたね」


「姫様、この世界で恐らくミフリ様という人物が、お姫様に違いありませんね」


「じゃあ、さっそく潜入といきましょうか」


「勿論ね」



「ちょっと、そこの二人、静止しなさい」


「あなたは確かアリエラ様」


 アリエラ、確か宰相に強く物言いをしていた人物ですわ。かなり厄介ですね。


「ここらへんで見ない顔ですわね。外部の者は王宮の関係者のこの領域に踏み入っていい話は聞いていないけど」


「ちょっと待ってください、私は宰相様の推薦状をもらってここに来たのですよ」


「宰相!? 怪しいね」


「……」


 全く信用されていない様子の私たち、まさにアリエラは私たちを嘗め回すように見てくるのである。


「ふん、確かに君たちの風貌は私たちの王国中枢部に入るにふさわしい容姿だ。どこの名門かは知らないけど、お姫様の従者である私が独断で手を出す案件ではないと見た」


「そうですか、お姫様とはミフリ様のことですか」


「ちょっとミケレ様、飛び出し過ぎですって」


「……」


 アリエラの様子を見るに、ミフリに近づくにはこの機会しかないと見た私は、思い切った言動を放った。ポリューシラにとっては最悪のタイミングだろうが、吉と出るか凶と出るか。


「ふん、いいね面白いね。気に入った。私が連れて行ってあげるよ」


「え、本当に?」


 ずいぶんとあっさりアリエラは道案内をしてくれるものだなと思った。




「うん、ちょっと客人がいるみたいだ、お前らはそこで待っていろ」


「はい」


 客人、誰だろうか。


「よくやってくれたわ」


「勿論ですよ。私は姫様のために、日々精進するまでの話です」


「その意気だわ、あなたの魔法はなんでもできる」


「ミフリ様」


「あらアリエラ、どういたしました」


「宰相さんからのご客人が伺ってきているのですが」


「あらご客人、聞いていないのですが、まあその場で理解しろという宰相さんの意図かしら。入れていいわよ」


「分かりました」


「おい入ってきていいよ」


 ふう、少々強引に取り繕ったが遂にここまで来ましたわ。


「こんにちは。私宰相様から姫様にご対面を申し付けられたミケレといいます。隣にいるのは私の侍女であるポリューシラですわ」


「え?」


「あなた達、なんでこんなところに」


 私は昔の緑陰の魔女に驚いた表情で見られているのだった。

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