第22話 観光

「これは凄いですね感動的です」


「でしょ、私は絶対そういう反応してくれると思っていた」


 喜んでいるポリューシラを見ていると嬉しくなった。


「あのすいません」


「え?」


 その時緑髪のエレメナの髪を少し短くしたくらいの女性に話しかけられた。


「あ、あなたは」


「どうかしましたか」


「あなたはっ……」


 私はポリューシラを止めた。


「なんでもありません」


「そ、そうです」


 すぐに察して乗ってくれた。


「そうですか」


「ちょっといいかしら」


 私はポリューシラと二人になって話をした。


「あれが昔の緑陰の魔女?」


 かつて王国へ信頼関係を持っていた彼女の表情は私が出会ったものとはあまりにもかけ離れていた。


「逸話の話から考えると無理もないことでしょうね。これから起こる未来を私たちは変えなくてはいけないでしょう」


「なるほどですね」


 ポリューシラはすぐにわかってくれた。


「いいですわよ。何かようかしら」


 引き続き緑髪の女性と話す。



「あのすいません、お二方私を王国の城下町まで案内してくれません」


「え?」


 映像として見ていたと認識していた目の前の光景であるが、いざ面と向かって具現化して話しかけてこられると。まさか自分たちが認知されているなんてという驚きを感じる。


「これは、私たちはもうこの世界に完全に溶け込んだようですね」


「ええ」


「あ、あの」


「すいませんこっちの話ですわ。いいわよ。案内してあげる」


 昔の姿の緑陰の魔女に私はそう話しかけるのだった。


 とはいったものの昔の王国の風景はあまりにも変わりすぎている気がする。


 侍の国というお伽話を聞いたことがあるが、まさにそんな感じの風景である。


「あのすいません、こちらで本当に正しいのでしょうか」


「ええ、勿論ですわ」


 一先ずあいまいな記憶の中で頑張っていくしかありません。幸いポリューシカも話を合わせてくれているようですし。


「……」


 しかし流石はポリューシラ、このような急な状況に立たされてしまったら、動揺してしまう筈ですが、状況を察してくれているようです。


 確か逸話ではお姫様に魔女が密かにあう約束をしていたような気がします。だからこそここは早々に決めるべきですね。場所は大方予想がついていますからね。





「しかしお二方はとても気品がありますね。私なんかが傍にいてなんだか申し訳ない気持ちになります」


「そんなことはないわよ」


 緑陰の魔女にそんなことを言われるなんて気持ちが悪いことである。ローブを纏った端正な顔立ちの緑髪の少女、襲撃時はローブで表情が隠れていてよくわからなかったが、雰囲気が明らかに違うのである。


 目の前で私が見ている緑陰の魔女は普通の大人しめで質素な普通の少女である。


「ミケレ様の傍に使えるものとして、気品を保つことは当然のことですよ」


 ポリューシラは随分と得意げに話し出すものだ。






「つきましたね城下町ですわ」


「ありがとうございます」


「あなたはこれからどこへいらっしゃるのですか」


「とある方に会いに行こうと思っています」


 おそらく王女様かしらね。


「お大事にね」


「ありがとうございました」


 緑陰の魔女はその場から立ち去って行った。


「お嬢様、追わなくてよいのですか」


「ええ、一先ずはわね。ここら辺を散策してみましょう」




「ミケレ様見てください、あちらにおいしそうなお店がありますね」


「ええ、まあそうですね」


 ポリューシラは随分と嬉しそうね。普段屋敷で業務に取り組んでいるから、外の世界は新鮮なのかしら。連れてきてよかったわ。


「それじゃあ、入りましょうか」


「本当ですか?」


 本当に嬉しそうな表情である。


「しかしこの世界の代金を私は持ち合わせていないのだが」


 ふと私の懐にあった袋の中を見ると、硬貨が変わっていることに気付いた。


「こういうところは帳尻を合わせてくれるのね」




「これは何でしょうか」


「団子です」


「団子、面白い響きですね」


「ミケレ様、これは本当に凄いものですね。私こんなものおとぎ話でしか見たことがありません」


「ポリューシラが喜んでくれて何よりですわ」


「……」


 ふと築くとポリューシカの傍に串が数十本落ちていた。


「あなたそんなに食べる人だったかしら」


「はっ、申し訳ありませんミケレ様! つい手が止まらなくて」


「はあ、まあ気にしなくていいですわ」


 思えばポリューシラには日々お世話になっていた一方で、恩返しはあまりしたことがなかった気がする。これはいい機会かもしれません。


「ミケレ様、そんなに私をじっと見つめないでください」


「そう? 私そんなことをしていたかしら」


「していましたよ。普段はあまりこういった機会がないので驚いてしまいます」


「いいじゃないたまには」


「ちょっやめてください」


 ポリューシラに恩返しをしたい私は、彼女のことが愛おしくなり抱きしめたくなってしまった。心の動きは体と同化してしまうものだと思う。現に今の私がそうなのだから。


「ううう……苦しいです」


「いいじゃないたまにわ」


「お客様、ここでそう言うやり取りは困ります」


「何でよ、いいじゃない」


 周囲のお客様にも迷惑が掛かっていますので。


「うん?」


 気が付けば私たち二人は、周囲の客の視線を集中して浴びてしまうのだった。


「あはは、ここらへんでお暇させて頂きますわ」


 私はポリューシカを無理やりひっぱって店から出ていったのであった。


「ミケレ様、痛いです」


「悪かったわよ」


「構いませんよ」


 明らかに許してないですわね。

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