第17話 王子を黙らせる〜お花畑コンビ〜

「私嬉しいです。殿下がミケレさんに思いを伝えられて。私はつらかったんですもの。ミケレさんは立派な方です。それなのに婚約破棄をするだなんてあまりにもつらかったんですもの」


「エレメナ」


「……」


 何を言っているのこの女は、といつもなる思うところであろう。私は以前からエレメナのこの偽善者ぶった態度が凄い嫌いだったのである。


 でも今は少し違っていた。エレメナは前回のループで私のことを命がけで守ってくれた。あの緑陰の魔女の圧倒的圧にも負けず、立ち向かった彼女の信念は本物だった。


 この子は心からのお人好しで、本当のバカだったのだ。


「エレメナ、僕は君のことを少しひいきし過ぎてしまったかもしれない。やっぱり僕はミケレと一緒に居たいと思っている。その反応だとエレメナは僕のことを許してくれるような」


「……も、勿論ですよ殿下! 私にとって殿下が幸せになることが何よりも幸せなのです」


「ありがとう」


「……」


 私は2人のやり取りを聞いてある感情に包まれた。


「ふざけてんじゃないわよ」


「バシッ!」


「痛っ!」


 とんでもない頭お花畑なコンビである。私をあれだけ、傷つけておいて今更。


 とはいえ、もうどうでもよかった。そういうものなのだと割り切ったのだ。


 気づけば私は殿下を思いっきりたたいていた。


「ミケレ何を」


「そもそも私の言っていることを中断したのはあんたの方でしょ。とりあえず今は後です。ここから離れましょう」


「どういうことだよ」


「エレメナも行きますよ」


「はい」   


 こいつらの頭花畑なやり取りには思うところがあるが、今は忘れよう。もっと大事なことがあるのだ。


 私は湖の屋敷に二人をまた連れていくのだった。




 敵がいつ攻めてくるか、わからないならこちらから責めてしまえばいい、いたってシンプルな戦術である。


 今回の私は一味違うのである。あの忌々しい緑陰の魔女をおびき出し、私自ら返り討ちにして見せますわ。


「殿下手筈は整えましたよね」


「ああ、そうだな、これでいいか」


「いいですね」


 私は殿下に見張りの兵を増長させた。数にして数十人、これが怪しまれずに連れ出せる限界値である。


 それに魔道具を完備して、エレメナと殿下の魔力を最大限に発揮できるようにした。


 これなら緑陰の魔女に勝てるに違いありませんわ。


「なあミケレ、こんなに重装備にして本当にそんな脅威が現れることはあるのか、僕にはここまでの戦力は大げさなように思えるのだが」


「気にしなくともその時は必ず来ますよ。私の勘を舐めないでいただきたいですね」


「君の勘は正直僕としてもよくわからないよ。だけど不思議と信じたい気持ちになるんだ」


 確かにまさかここまでスムーズに事が運ぶとは思いもしませんでしたわ。殿下が私のことをこんなに信じてくださるなんて、天は私を味方してくれているのでしょうか。


「しかしエレメナもよくついてきてくれましたわ。あなたの力はこの先もきっと必要になります」


「ミケレ様は私の能力をご存じだったのですか」


「え? ううんまあ、極秘情報として私の耳に入っていますわ。公爵令嬢の情報力を舐めないでいただきたいです」


「そうですか、それなら話が早そうです。この能力は禁忌なるもの、絶対に安易に使用したくありません。それに私自身もこの能力が嫌いですね」


「そうでよね。だからそんな力、エレメナあなたは能力を使う必要は今回はありませんわ」


「なんですって」


「だって大切なものを守るのに自分が犠牲になってしまってわ本末転倒ですわ。あなたの力はただ守りたい人ですら悲しめるだけの能力にすぎません」


「でもそれでも何もできないよりはましです」


「そういって守った相手は犠牲になったあなたを見てどんな気持ちになるかわかりますか? 悲しみをただ押し付けてるだけなんですよ」


「……それでも私は守れるなら、この力を使います」


「好きにすればいいですわ」


 頭の固いエレメナにいらついた


「おいおい二人とも喧嘩はやめてくれよ」


「殿下は黙っていてください」


「す、すまない」


「お三方到着しました」


 そうこう言っているうちに、目的地へ到着した。湖の畔にある小さな屋敷、私が頭を悩ませて数々のループを渡ってきたのも、この場所が始まりである。

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