第16話 実は溺愛されていた〜仕返し〜

空間がよじれる次の世界がすぐにでも顕現するのである。


「やっと戻ってこれたわね」


 目を覚ますといつもの屋敷の空間がそこには広がっていたのであった。


「この光景もそろそろ見納めにしたいわね」


 もう何回も見たこの屋敷の光景、数回のループを得て、具体的な仮装敵は既に定まっている。そろそろこの展開も飽き飽きである。


「緑陰の魔女……もう許しませんわ」


 完全に標的は定まった。もうあいつだけは許さない、どんな手を使ってでも葬り去ってあげますわ。


「この公爵令嬢である私を見くびるんじゃありません」


 私は精いっぱい意気込んで、一人この部屋で叫ぶのであった。


「ミケレ様!」


「ポリューシラ!? ちょっとあなたノックしなさいよ」


「すいません、何か声が聞こえたもので何かあったのかと心配になりつい」


「何かって、何もないのだけれど」


「そうですか」


 危なすぎる、危うく私の独り言だとばれるところでした。少し抑えなくてはなりませんね。


「しかしいいところに来ましたわポリューシラ」


「はい?」


「私とちょっと付き合ってくれません」


「え? ちょっとミケレ様! 急にやめてくださいよ」


 私はいきなりポリューシラの手を取り、一緒に出掛けようと引っ張ったのである。






「どこへ行くおつもりですか」


 屋敷からしばらく離れたところで、ポリューシラから指摘が入る。


「そうですね。殿下の元へ」


「殿下の元ですか? これはまた急な様子ですね」


「そうよ、本当に急なこと、絶対に譲れませんわ」


 今度こそ意地でも殿下と一緒にいて見せる。そして緑陰の魔女と対面して見せる。




「さて、ついたわね」


 殿下のいる王城についた私は間髪入れず突撃する。


「ミケレ様、突然お越しになって驚いております。できれば前もって、約束を取り付けてもらいたいのですが」


「……」


 殿下の部下が現れると私にそう問いかけてくる。しかし私は無視をした。


 事態は一刻を争うのである。前回のループで殿下は突然いなくなった。なればこそ常に私は殿下のそばに居なくてはいけないのである。


 それにこのタイミングで殿下がいなくなるかもしれない。



「ちょっと、ミケレ様! お手続きをしてもらわないとこの先へは通せませんよ」


「先を急いでいますの。ポリューシラ相手をしてあげなさい」


「分かりましたミケレ様」


 私はこういう時の時間ロスをなくすためにポリューシラを連れてきたのであった。


「待ってなさい殿下、今向かいますよ」




「なんだミケレ、何しに来たんだ。僕は君とはちょっと距離を置きたいんだが」


「……」


「バシッ!」


「なっ」


 私は出会って早々殿下のほほに強烈なビンタを喰らわせてやった。


「いい加減にしなさいよ。あなたには何も周りが見えてない」


「なんだいきなりミケレ、随分と強気じゃないか」


「何よその表情」


 殿下はここ最近の威圧的な態度と打って変わって嬉しそうな表情で微笑みだすのであった。


「正直嬉しかったんだよ。ミケレ、僕は君に本心から気持ちをぶつけて欲しかったんだ」


「どういうこと、とにかくあなたは周りが見えてない。そんなんじゃあなたの思い人であるエレメナもどうにかなってしまいますよ」


「何を言っているんだ。僕は別にエレメナを思い人と思ったことはないよ。それに思い人は君のことさミケレ」


「は、はあ? 婚約破棄までしておいて、あなたは何を言ってますの」


「すまなかった、これまでのことは謝りたい。ただこれだけは言わせてほしいんだ。僕はミケレが僕のことを本気で向き合ってほしいと思って、これまでいろいろ努力してきたんだ。やっと僕の理想の形になってきてくれて、それがとても嬉しいんだ」


「何を言って」


 おかしい、違和感しかない。私がどう考えても殿下に喝を入れて主導権を握る状況だったはずなのに、どうも今の殿下の急変ぶりは変である。私のことを嫌っていたはずなのに。私にはエレメナのような特別な価値観はないはずなのに。


「でも私には、特別な価値観が何も提供できない」


「何を言っているんだ、ミケレ、君は僕にとっていてくれるだけで特別な存在さ」


「殿下……」


 私の心は満たされた。父上の手紙の約束は何もしなくても果たせていたのだ。


「殿下!」


「エレメナ」


 その時エレメナが現れたのであった。


「涙!?」


 現れたエレメナの瞳からは涙が流れていた。

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