第15話 記憶喪失

「殿下をやったのはあなたね」


「ふん、小娘が、そうだったらどうだっていうんだ」


「こいつ」


 エレメナがこんなに怒っているのは初めてみる。それに殿下がやられたって。


「ちょっとエレメナ、殿下はどうしたのよ」


「すいませんミケレさん、状況は私の方から話させていただきますので、ここから離れてくださいますか?」


「え?」


 何それ、私は足手まといってこと? そもそもあなたに務まる相手でもないはず。


「聖女の力を解放します」


 次の瞬間エレメナは自身の体から光を放つのであった。


「いい魔力だね。だがまだまだ小娘よ」


「うっ」


 エレメナの光は緑陰の魔女が繰り出した茨に遮られ拘束される。


「エレメナ!」


「私はね、ずっとこの茨にしばられていたの。何年も何年も陥れられて、なんて残酷な仕打ちでしょうね」


「なにをいって……」


「あなた方には知る由はないわね、くたばりなさい!」


「やめなさい」


 次の瞬間鮮血が飛び散りエレメナはいばらに埋め尽くされた。


「あははは、私にたてつくからこうなるのよ」


「ひえっ」


 私は目の前で高笑いをする緑陰の魔女に戦慄し恐怖を抱く。


「何? 次はあなたの番だけれども」


 緑陰の魔女の威圧感が私を追うのであった。


「い、いやああああああああああ」


 私は全速力でその場から逃げるのであった。逃げることは恥ではないはずだ。こんなことになるのなら問題ないはずである。


「逃げても無駄だよ」


「うっ」


 緑陰の魔女のいばらが私の足をとらえることになった。


「こ、ここまでかしらね」


「ふふふ、おとなしくなったようね」


 緑陰の魔女は私をとらえたことを確認すると、笑みを浮かべて喜びだすのだった。


「あなた、覚えてなさいよ。この恨み絶対私が晴らして見せる」


「恨み? アハハハハ、これから終わるやつに何もすることはできないだろうが」


 次の瞬間緑陰の魔女のいばらが私の頭上に振り下ろされて、私の視界は真っ暗になった。






「またここか」


 目の前に広がるは広大な砂漠。また私の能力が発動したのね。


「あなたは未来の私!?」


「……」


 突如私の目の前に現れたのはうつろな目をしてたたずむ、未来の私であった。確か緑陰の魔女に記憶喪失をかけられたみたいだけどどうしたものかしらね。


「ずいぶん無様な様子じゃない。あれだけわたしに何かを伝えようと意味深なことをして結局あなたは何もできずに失敗をするのね」


「……」


「なんで、その様子で私の元に現れたのかしら。困るのよそんなことされても」


 私はうつむいているだけの未来の私の元を離れようとした。


「それじゃあさよなら……」


「……」


「チッ」


 私はしかしすぐに足を止めて未来の私の元へまた戻るのだった。


「なんであなたがそうなっちゃたのよ! 私はひそかに心の中であなたが私を助けてくれることを信じていたのよ」


「……」


 しかしうつろな目で反応がない未来を見て、私は膝をくじく。


「そんなんずるじゃない」


 なぜ私に希望を抱かせて落とすようなことをするのか。未来の私の示す言葉が私にとって救いとなりうるものだったのに。


 でもこうなってしまったからには仕方がないのである。そもそも未来の自分の情報を頼っていこうだなんてズルでしかないと思う。これが普通なのだ。


「もういいわ、あなたはそこでじっとしてなさい。私は先に行くわ」


 覚醒の先に何があるのか、私は自身の決意をより強くするのであった。


「まって」


「!?」


「完璧主義の意味は分かった?」


「何? やっとしゃべったと思ったらそんなこと? 完璧主義の意味なんてわからないわよ。私のループについて言いたいのかしら。こんなのどうしようもないじゃない。じゃあ何が言いたいの」


「……」


「どういうことよ」


 また黙りだす未来の私、もしかして完璧主義というのは夢の中で自分が呟いているといったところかしら。


「もう行くわ。全く救えないわ。自分に言うのも気持ち悪いものだけど、そのまま記憶喪失なら時間の狭間をさまようことになるのねあなた」


「……」


「はあ」


 私は依然と何も答えない未来の私を見て、ため息をしてしまった。


「わかったわもう、あなたは私が必ず救ってあげる。おとなしくそこで待ってなさいじゃあね」


 私は今度こそ未来の私にお別れを言って先へ進んだ。


「……がとう」


「っ!」


 未来の私が小さい声で何かを言ったような気がした、しかし私はすぐに気のせいだと切り替えるのであった。

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