第13話 新たな価値観探し デート


「さて次はどこに行こうかしらね」


 私はポリューシラと別れて、一人街へ行くために買い物へ向かった。


「ようミケレ」


「あなたはリュドシカ」


 嫌な奴が現れたものだ。殿下と仲がいい貴族、リュドシカ。


 こいつに絡まれると、無駄に気を使うから嫌だ。


「何をしているんだ」


「何をしているんだって見てわからない? 買い物よ」


「ほほう買い物か、珍しいなミケレ、俺も同行してもいいか」


「まあ別にいいけど」


 仮にも殿下と仲がいいリュドシカの誘いを断るのは私にはできなかった。嫌な感じである。




 特に用はないが商店街を回る私、一先ず今私がするべきことなんてものはない。殿下に与える新しい価値観を見つけるまでは、私が何をしようとすべては無駄になることなのである。


「しかしねリュドシカ、あなたは何してたのよ逆に」


「え、俺か?」


 時刻はお昼差し掛かるくらい、普通この時間帯はみんな自身の業務をこなしているはずであるが、私? 私はそう特別、令嬢特権として今日は業務がないのである。


「ああ、サボってきた」


「は?」


 何を言ってますのこの男、頭が狂ってしまったのかしら。


「おっと、勘違いするなよ。俺の生成魔法で分身を作り出した。しっかりと業務は分身がこなしてるのさ」


「そんなのずるじゃない!」


「はははは、分身は立派な俺のスキルだからな。悔しかったら真似をしてみろよといいたいね」


「だ、ダメだコイツ……」


 とはいえ分身魔法を使えるものなんて、王国では手で数えられるくらいのものだろう。リュドシカの魔法精度はそれほど正確だといえる。


 実力だけは認めざる負えないのが腹立たしいものね。


「まっ、俺の話は置いといて、買い物の続きをしようぜ。もしよかったらいい店を紹介してやるよ」


「本当に? ありがとう!」


 リュドシカの奴気が利くじゃない、普段買い物には行かない私にとって商店街は未知の場所、右も左もわからない私にとって情報通がいると凄い助かるのであった。


「ミケレはどんな雰囲気の店が好きなんだ」


「ええとね、人が少なくて落ち着いた雰囲気の場所かしらね」


「落ち着いた雰囲気ね……」


 そもそも商店街なのだから人が多くて当然、その中で落ち着いた雰囲気を提示するのもちょっと意地悪な提案だったかしら。べ、別にリュドシカをいじめたくてこんなことを言ったんじゃありませんのよ。とっさに本心をいったまでのことで私は悪くありませんわ。


「OK! 任せとけ。ついてきな。俺がお前をエスコートしてやるよ」


 そういうとリュドシカは私の手を取って走り出した。


「ちょっ! 何よいきなり」


 まさかこんなに瞬時に提示の店を思いつくなんて想定外だ、と思いながら突然私の手を取って走り出したリュドシカの奴に私はさらに驚いてしまった。


「さあついたぞ、楽園の園」


「楽園の園?」

 

 ざわついた商店街の裏路地にポツンと佇んでいたその店は、絶妙な具合で周囲の話声が遮断されていて、いい雰囲気が出ていた。


 更に茨で覆われた店の外観はどことなく不気味さをおぼえる。


「ちょっとリュドシカ、あなた趣味悪いわ」


「おいおい、店の前でそんなこと言うなよ」


「いらっしゃいませ」




「ひっ」


 扉が開き顔を出した店主は女性だった。タイミング的にもしかして私のさっき言ったことが聞こえていたのかしら。


「よお、店主さん、元気にしていたか」


「リュドシカか。久しぶり」


「お二人は仲が良いのですか」


「まあちょっとな、立ち話もなんだから、店に入って話をしようじゃないか」


「ガタッ」


 店に入ると物静かなお客さんが多かった。どうやら私と同じ静かな場所を好む人も多いようだ。


「じゃあいつもの頼むよ、今日は二人前で」


「いつものね」


 リュドシカの手慣れた感じはまさに常連さんであった。


「まあさっきの話の続きだけどね。特に理由はないね。ただの常連さんだからね」


「はあ」


「そういうことだ」


 リュドシカはこちらをにやけながら見てくる。


「あなた、いつも業務をサボっていろんな店で遊んでますの」


「それを言われたら何も言い返せんな」


 クズだわ。


「まあそういってやるなお嬢さん、私としても常連さんがいると嬉しい限りだか。この店のルールを知らない客というのが来ると、めんどくさいものなんだ。ほら早速きたようだぞ」


 店主がドアを指さすと、かなりガラの悪いならず者集団が店に入ってきた。


「ガッハッハッ! ずいぶんしけた店ですね兄貴」


「ギャハハッ! すぐにつぶれるんじゃねえのここ」


 はあ、視界に入れるのすらはばかられる品位のなさですわ。この店に明らかにふさわしくありません。ここはひとつ私が喝を入れていきませんと。


「うん?」


 席から立とうとする私をリュドシカが片手で静止した。


「まあ、ちょっと見とけって。店主の腕の見せ所だからさ」


「それはどういう……っ!」


 ふと振り返ると店主の姿が消えて、気が付けばならずものたちの前にいた。


「いらっしゃいませお客様、しかし当店では大声での会話はお控えになってもらいたいのですが」


「なんだとてめえ!?」


「危ない」


 ならず者の一人が店主に殴りかかる。


「おやおや、手を出してしまいましたか。それでは仕方のないことですね」


「え?」


 次の瞬間殴りかかったならず者は突然倒れてしまった。


「てってめえ、何をしやがった」


「はて、私は何も、ただこの方が突然倒れただけですが」


「う、うわああああああ」


 ならず者は倒れた仲間をつれて、逃げていった。


「あっ記憶は消させてもらうよ」


 逃げ出したならず者に店主は魔法をかけたようにも見えた。一体何の魔法かしら。


「一体これはどういうこと」


「流石店主、腕はなまってないようだね」


「はて、何のことだ? 勝手にあいつが倒れただけだが」


「そういうことかよ」


「どういうことよ」


「まあ、店主はこう見えて凄腕の魔術師なのさ。さっきのは目に見えぬ高速魔法、俺も最初店でうるさくしていたら、魔法を打たれてな、あの時は凄かったよ」


「そうなの」


 どうもこの店主どこかで会ったような気がした。


「まあ、そういうこと。まあゆっくりしていってね」

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