第9話 口つけ
私は倒れている殿下を見る。
「そういえばエレメナはどこへ行ったのかしら」
殿下はエレメナに会いに行ったはずである。なのにその姿はどこにも見当たらなかった。
「殿下以外の見張りも消えているわ。私が言えるのはこれくらいかしらね」
確か未来の私は干渉できる範囲が限られているそうで多くを語れないのだった。成程たしかに見張りも消えているようだ。見張りと一緒にエレメナも緑陰の魔女に何かをされたに違いない。
「意識がないわ」
私は倒れた殿下の様態を図る。
「そうね、これは緑陰の奴が術式をかけたようね」
「術式?」
「ええ」
「解除方法は?」
「言ってもいいけど腰抜かすわよ」
「いまさら何を、殿下のためなら何でもするわ」
「そう」
未来の私はさらに真剣な表情になる。
「禁断の口付け、それこそ術式を解除する方法よ」
「口付け……え?」
私は突如でたワードにあっけにとられ、冷静になると顔が赤くなっていることに気付いた。
「そ、それは殿下に失礼でなくて? 了承もとらずに身動きが取れないところをいきなり狙うなんて」
「でも殿下のためなんでしょ」
「……ゴクリ」
そうだこれは殿下ためなのである、それなら口付けくらいしたって別にいいじゃないか。
殿下の顔に顔を近づけるほど、私の心臓の鼓動が高速で振動するのだった。
「もうどうにでもなりなさい」
距離が近づくほどに迷いが生じることに気付いた私は覚悟を決めて勢いで思考を放棄することに決めた。
「やっぱダメ!」
「うわっ!」
次の瞬間未来の私が魔法を放ち、私を突然吹っ飛ばした。
「え? これは一体どういうこと?」
突然の出来事に驚きつつも顔を上げると、みたこともない焦った表情で動揺している未来の私の姿がそこにはあった。
「やっぱり私には我慢できなかった」
「ちょっとあなたこれはどういうことなのよ」
なぜ私の殿下との口付けを中断させたのか、未来の私がやれって言ったんじゃないの。
「……ごめんなさい」
「ちょっと待って!」
うつむいた表情をした未来の私は、突然謝ると姿を消すのだった。
「一体どういうことなのよ……」
「殿下!」
「!」
その時聞きなれた声が聞こえた。私にとっては憎むべき相手、何回も頭の中を反芻した声である。
「あなたはエレメナ!」
「ひっミケレ様! どうしてここに」
遂に憎むべき相手と一対一の対面を果たしたのである。
「どうしてここに? それはこちらのセリフじゃありませんの?」
「どういうことですか」
「あなた私の殿下に手を出しておいてただで済むと思っているのかしら!」
「私のというのがよくわかりませんが、私はただ私をよくしてくださる殿下に誘われてここに来ただけですので。私自身も殿下と楽しいひと時を過ごせてよかったと思っています」
「なによこいつ」
随分と強気で余計腹立つ。
殿下に臨まれている、それは私とエレメナの決定的な違い、無意識なのだろうが確実に私の嫌なところを突いてくるので本当に腹立たしい。
「それが婚約者である私の前でいう態度ですの」
「も、申し訳ありません」
こ、これよ、こいつのこのかしこまった態度が腹立たしいの。なんでこいつは責められているのに、こんなにかしこまった態度で冷静でいられるの、こっちが悪者みたいじゃない。
「でも私は殿下と一緒にいたいのです」
「だから私は殿下の……」
「その件ですが」
私が再び殿下は婚約者だと言おうとすると、ふとエレメナの雰囲気が変わった。
「な、何よ、いきなり真剣な顔つきになっちゃて」
私はエレメナのオーラを前に身構える。
「確か殿下はミケレ様とは婚約破棄をしたといっていましたわ」
「は?」
ははーん、こいつの口からそんな言葉が出るなんて思いませんでしたわ。完全に私を怒らせましたわね。
「そ、それは殿下の軽いジョークですよ。まさか本気にしちゃいましたの?」
私は思わず怒ってて手が出そうになった。
「そんなことより殿下の安静をみなくては」
「言われるまでもありませんわ」
うまい具合に切り返されたが、今は殿下の容態を見るのが第一である。
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