前章

第5話 本ルート

「婚約破棄ですか……」


「ああ」


「何を言っていますの、そんなことが許容できるわけ……」


「行こうエレメナ」


「はい!」


 立ち尽くす私を無視して殿下はエレメナの手を取り部屋から出ていった。


「ちょっと待っ……!」


「バタッ」


 私が言葉を言い切る前に殿下は扉を思いっきりしめた。その態度からは怒りを感じ、ひるんだ私は身動きをとることができなかった。



「駆け落ちですか、そんなことしてあなたは馬鹿ではないのですか」


「黙れエレメナは僕の本心まで見てくれる素晴らしい存在、お前にはそんなことはできない。僕にとって地位や名誉などいらない、ただささやかな幸せがあればいいんだ!」


「そんなこと言っているから破滅するですよ殿下。いいですか私が教えてあげます! あなたはその女と駆け落ちした先で蛮族に命を奪われる。これは断定事項です」


「お前のでたらめは聞くに堪えない、蛮族など私の剣で引き裂いてやる!」


「その剣が意味ないって話なんですよ」


「黙れ! 行くぞエレメナ!」


「はい、殿下!」


 そういうと城の裏道を使ってエレメナと駆け落ちしようとする殿下、私の目的は言葉で殿下を説得すること、こうなってはどうすることもできない。


「また、あなたは修羅の道を行くのですか。本当に救えない人ね」




「この状況を打開するにはどうすればいいのかしら」


「いい着眼点だね」


「あなたは何者?」


「私は星占いを得意としているものだ。私の水晶によると君は非常に興味深い体験をしているようだ」


「気味が悪いですわ。話しかけないでくださいます? それではお暇させていただきます」


 星占いを自称するローブを来た人物に話しかけられた私は気味が悪くなり、素通りすることにした。その人物の口からある言葉が出るまでは。


「殿下を救いたくはないのですか?」


「……」


 耳を疑うような発言である。なぜこの人物がそんなことを知っているのか、思わず私は足を止めてしまう。


「あら、そうですか、てっきり私はあなたが殿下のことを救いたいのではないかと思っていました。私にはその方法がわかる。しかしその反応を見るに余計なお世話だったようですね」


「ま、待ちなさい」


 無意識のうちに漏れた私の言葉を聞くと、その人物は嬉しそうに微笑みかけるのだった。


「その言葉を待っていましたよ」



私は屋敷に連れられた。

 

「あなたに会いたかったわミケレ、いや「現在の私」」


「えどういうこと?」



 この瞬間本来交わるはずのないものが交錯する。





「あなたが未来の私? じゃあ私が未来でいったいどうなったのか聞かせてもらおうかしら」


 全く信用してない様子で、ローブの人物へからかい口調で質問を投げかける。


「ごめんなさい、私の口から未来のことをいうことはできない、時系列に干渉することはできない制約なの」


「そう、ならあなたにできることはないわ、ご苦労様」


 とんだ冷やかしだ。私はこんな意味の分からないことで、時間を潰している隙はないのである。かなりこれでも二桁はループをしたのだから。


「待ってよ、そんなせっかく未来の自分に会ったのに素通りするって能天気過ぎない」


「だってあなたにもうできることはないじゃない。未来のことを話せないのならあなたの存在意義って何? あなたの世界に帰ったらどうかしら? ここにあなたの居場所はないわ」


「パチっ」


「ッ」


「これは」


「フフフ言ったでしょ、干渉はできないが助けになることはできるって」


気づけば部屋の中は私がループ時に以前から見ていた砂漠で覆われていた。


私と同じループ能力の光景、紛れもない目の前の人物は未来の私だと確信できた。

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