第6話 狂い衝動

「全くあなたの他人への無関心さは見るに堪えないわ。そもそも未来の自分はなぜここにいるか、とか気にならないのかしら」


「別にどうでもいいけど、そもそも答えられないんじゃないかしら」


「ご名答ですわね」


 はあ、だったら聞くなっていうの。


「それでこれはどういうつもりなの。私の能力の代償がいきなり起きてる。これは私ではないわ。つまりこの世界のもう一人の私、あなたの仕業でしょ」


「ふふふ、ご名答、身をもって知ってもらうというのが一番効果的なんじゃないかなと思って使用したんだよ」


「ふん、そうなの未来の私もこの忌々しい能力は健在なのかしらね。お気の毒様だわ」


「そんなことはないさ、むしろ君はこの能力に感謝するときがくる」


「本当かしらね」


「まあそのうちわかるさ、そんなことより今この空間を発動した理由は未来の干渉能力を下げるため、ここならある程度の制約を受けずに未来の話ができるのさ」


「どういうこと」


「崩壊した世界、未来を知っている私ならある程度知っているのだけど、この後の出来事であなたはこの光景を作り出すことになるのよ。つまりはこの事態は確定事項、そして全てが崩壊したこの世界なら、私の言動により変化する事象は、全て影響力はないということさ」


「そう、じゃあさっそく話してみたら」


「上から目線が非常に勘に障るわね。まあそうさせてもらうわ。あなたはこれから殿下と戦うことになるのよ」


「は?」


「正確には殿下の気持ちを奪ったエレメナに対しさらに恨みを抱く局面に立たされるの、腹が立ったあなたは一線を越えてあなたは襲いかかる。その時殿下にあなたは吹き飛ばされて、決闘を申し込まれるのよ」


「そんな馬鹿な」


「本当よ、条件は今後一切エレメナに関わらないこと、それはつまり殿下もエレメナと常に一緒にいるから、殿下と対面する機会も奪われることになる。そしてあなたはその戦いに敗北するのよ」


「嘘でしょ……」


「本当よ、あなたは無様に負けるのよ」


「それ自分で言っててつらくないのかしら」


「まあね、今はまだ知る必要のないこと。それに私が話せるのは干渉力を下げたこの場所でもこのラインが限界かしらね」


「もういいわ。今すぐ消えなさい」


「うん、わかった。信用はしてくれないみたいだね。くれぐれも気を付けるんだよ」


「もうどうでもいいの。全てがどうでもいい。私のことは放っておいて」


「うんその気持ちは凄くわかるよ。まだ私が会うのは早かったみたい。もう少し先の未来で会おうか」


「……」


 そういうと未来の私は消えた。同時にループも起きなかった。


 意味が分からない。何未来の私って。それに私はこのまま破滅するのか。


 まあもうどうでもいいけど。


 私の意識は婚約破棄をされて朦朧としていた。


 ただじりじりと足を前に進ませる。




 そこから時間が気づけば飛んでいた。


 あまり覚えていないが淡々と時間が過ぎさっていたのだ。


 抜け殻のような生活を送る中で、私は遂にそれから始めてエレメナと殿下が仲良くしている光景を目の当たりにする。




 裏切り、それは私にとって到底許せないものである。まるで飛ぶ蚊を見るかのような不快感を目の前のこいつに私は抱く。そして行動に移し手を行使するのは一瞬であった。


 「ダッダッダッダッ」


 一目散に衝動に任せて私は走り出した。


「バシッ」


 私の平手がエレメナの頬をとらえるのだった。


「い、痛い? 何者ですか?」


「き、君はミケレ! こんなことをして無事で済むと思っているのか!」


 殿下の応答に余計腹が立つ。


「うるさい」


「え?」


「うるさああああああああい!」


「うわっ!」


 怒りが極限に達したとき、通常相手を倒すのに必要だと認識する自分の力加減を大幅に超えて、過剰な力が目の前の対象めがけて発動した。


 もはや理性を失っていると私はこの時感じた、あれだけやってはいけないと心の中で思っていたことなのに、感情の爆発というのは恐ろしいものである。


 とまって、これをしてしまったら私はもう殿下と……お願い止まって!


「はっ」


 その時目の前は見慣れた砂漠へと変化していた。


「よかった……能力が発動してくれた」


 私はとっさに自分の首に怒りの力が向くように促した。これがうまくトリガーとなったようだ。


 私はこの時初めて自身の中にある能力に最大の感謝を感じたのだった。そしてその表情は緩み赤くなり、目には気づけば涙が浮かんでいるのだった。

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