雪の大地3
目の前で、敵の戦車があらぬ方向に主砲を向けた。
その隙を狙った指揮官は塹壕の奥で
「今だ行け!」
と叫び、それと同時にソ連兵の波が出来上がる。
そんな中で、俺はただ1人SVT-40の4倍スコープを覗いていた。
皆が命を懸けて突撃していく中、1人塹壕に隠れて戦果のみを上げていく俺達狙撃兵は、一般歩兵からは随分と腫れ物扱いされたものだ。
自分に味方は居ない。
そう考えるのが狙撃兵の鉄則だとさえ俺は考えている。
叫びを上げながらPPSh-41を乱射してるだけの猿共に、狙撃手の努力が伝わるはずもない。
息を鎮め、慎重に距離を測る。
呆然と双眼鏡を覗き、味方の戦車が撃った高台を眺めている敵兵を照準に捕える。
スコープのT字線に写っている彼は、司令官かもしくは指揮官らしき様子だった。
意識を失ったように棒立ちしている様子に不信感を覚えながらも、俺は引き金を絞り、視界の中で鉄帽が宙を舞うのを確認した。
俺は、あの黒煙の立ち昇る高台に何があるのか気になった。
司令官の方を伺うと、哀れにもこちらに視線を戻した戦車に打ち砕かれている。
軍に入る前、コソ泥をしていた時の感覚を思い出しながら、俺は大回りして高台に行くことを決めた。
敵に見つかれば撃たれるのは勿論、味方に見つかってもNKVDに首を飛ばされるだろう。これが味方の居ない戦地の実態だ。
遠くから見て明らかに押し負けている戦況で、しかも守っているのは空爆で廃墟と化したスターリングラードだ、自分一人で戦況が一転するはずもない戦場で、前に進んでも後ろへ退いてもあるのは死のみ。
そんな中で戦意を持てるわけもなく、俺は高台を目指すことに没頭した。
かなり大回りして高台の裏に辿り着くと、そこには人が通ったであろう跡が雪の中に残っており、その跡を遡っても終わりが見えない、遥か遠くまで続いている。
不思議なことに、先程まで聞こえていた轟音がここでは全くと言ってもいい程聞こえなかった。
跡を追って高台に登るとそこには、焦げついた土と、スコープの砕けた、どこか見覚えのあるモシンナガンがあった。
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