第10話 「魔王」

 昨年の年末、クリスマスの時期。

 もし彼がいたら

「堀さん、有馬記念どの馬買いますか…。買ってきますから言ってくださいね」

 飲みながら話していたでしょう。


 こんなことを思うというのは、

 まだまだ僕は “居心地の悪さ” を

 感じているのでしょう。

 

「魔王」という焼酎をご存知でしょうか。

 彼が亡くなる前に焼鳥屋のマスターが取り寄せたものでした。

 飲みたがっていたものらしく、マスターが特別に仕入れたそうです。

「飲ませたかったな…」

 とマスターつぶやいていましたね…。


 亡くなった彼はここで「魔王」を飲むことはできなかったです。


 不思議とこうゆう話、これだけはあげたかったけれど生前に来なかった、間に合わなかったとか、亡くなってからチケットがとれたとか、そんな話があるのですね。

 本当に不思議です。


「早く来ないからみんなで空けちゃったよ」

 前なら笑ってそう言っていたのかもしれません。


 でもまだ僕は「魔王」を飲んでいないので、封は切られてないのでしょう。


 「魔王」の瓶は僕らと同じように、今でも居心地悪く飲まれもせず棚にしまわれているのでしょうね。

        


*****


ここまでが今年の2月に書いたものです。

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