第6話 あと何回

 五十も半ばになると、おじさんになると

「あと何回、桜を見られるのかな…」

 とは考えます。


 若いころはそんなこと露ほどにも思わないけれど、あと30回くらいかな、ひょっとすると25回くらい…、なんて思う。


「明日が来ない」

 これはまったく考えていない。


 でも明日が来ない人も世の中にはたくさんいるのですね。


「うちの母が亡くなりまして…本当にお世話になりました」

 調剤をよくしていたおばあさんやおじいさんが亡くなると、ご家族の方が薬局に来られることがあります。

 余った薬や注射の処分をお願いされたりもします。


 薬局にいるのでそうゆうことはありますが、病院やホスピスで働いている方はもっと頻繁にこのような経験をされているのでしょう。


 誰にでも平等に「明日が来る」のではない。

 僕はこの現実をうまく認識できていなかったのです。


 

 彼の不在という感覚に正直とまどっています。

 不在の対義語は在宅、在地、在室などのようです。本来いるべき場所にいない、そうゆうことです。


 彼が本来いるべき場所から突然に消えた。

 その空気、場所、時間に残された僕らは、前話で書きましたように、

「不在を感じながら」

 なんか居心地の悪い妙な感覚を抱えながら生きていくのかと思うのです。


 

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