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新聞は相変わらず重要な記事とどうでもいい記事のどちらもが誌面を賑わせている。
思えば、新聞を読み始めたのはまだ傭兵を始めて間もない、ハイエナとしては三流もいいところのガキだった頃だ。
『戦場を生き抜きたきゃ、少しでも稼ぎたきゃ新聞くらい読め』
豪快に笑う二回り以上年上の男にそう言われた。
そいつは文字の読み書きもままならないクソガキの俺に根気強く付き合ってくれた。
おかげで俺は戦場で死ぬ事なく今日まで生きてこられたし、こうして新聞も読めている訳だ。
「……ドレ」
「んー?」
「……なんか、面白い記事あった?」
「んー……」
キルにしては珍しい質問だった。
キルの様子を見る。
コップと皿が空になっていた。
食事を終えて暇になったいたのだろう。
質問に答えるのは面倒だったが、俺は新聞を捲ってひと通り記事に目を通した。
それから、結局新聞を閉じて、一面を見せるようにテーブルに置いた。
「勇者サマがこの国に来るってよ」
「おぉー……。ゆうしゃー……?」
「最近売り出し中の冒険者サマだよ」
『勇者』というのはこの大陸では広く知れ渡った御伽噺に出てくる主人公だ。
悪のドラゴンに捕らえられたお姫様を助ける強く、勇敢な人間の話。
作り話なのか実話なのかも曖昧なぐらい昔にあったらしい話。
その主人公が『勇者』なわけだが、その逸話にあやかってか並外れた実力のある若い冒険者を『勇者』と呼ぶ風潮がある。
新聞の見出しの勇者もつまりは並外れた実力のある冒険者のことだ。
「まったく、こんなガキを持ち上げて何が面白いんだか」
「ドレはゆうしゃ嫌いなのかー」
「嫌ぇだよ。ああいうお高くとまった連中を俺が好きなわけねぇだろう?」
こっちはまともな教育も受けられなかったガキだったわけで、貴族だか王族の嫡子らしい連中を好きな理由などあるはずもない。
そもそも、実力に関しても目の前にいる幼い少女の姿をした最強兵器の方が強いに決まっている。
キルと目が合う。
キルは可愛らしく小首を傾げた。
俺は溜め息を吐く。
「ま、俺らには関係ねぇか」
「そっかぁー」
新聞をもう一度手に取って広げる。
まだ読んでない記事を読み直す。
その最中、ふと思った。
「あー、でも」
「?」
「この街にも来たりしたらパレードとかやるのかもな」
「おおー、ぱれーど……!」
キルは収穫祭の時期に執り行われるパレードを想像しているようだった。
相変わらず目は虚ろだが、確かに楽しそうにしていた。
俺はその様子に息を吐いて、残りのコーヒーに口を付けるのだった。
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