第3話 ドレの日常
1
「キル」
読んでいた新聞から目線を上げて対面を見る。
対面にいるのは幼い見た目でありながら絶世と言って過言ではない美貌を備えた少女ーーキルだ。
名前を呼ばれたキルは飲んでいた牛乳を置いて、それから首を傾げた。
「……相変わらず旨そうに飲むよな、お前」
「……牛乳美味しいから……」
キルはいつもと変わらぬ虚な目で、しかし楽しそうに答えた。
こんなやりとりもすっかりいつものもの。
「で、キル。今日はなんか予定があるのか?」
今日は端的に言えば休みだった。
普段であればギルドに行き、適当な依頼を見繕って、適当にこなしに行くのだが、今日はそうもいなかい。
今日はギルドが登録冒険者の健診を行う日だからだ。
つまり、健診の順番が俺に回って来ていた。
サボってもいいのだが、無料で受けられるのだから受けた方がいいに決まっている。
俺は大人しく健診に行くことにした。
俺が依頼を受けなければ、当然キルの仕事もない訳で、つまりそういう意味で休みであった。
「ん。今日はエマちゃん達と遊びに行ってくる」
キルはテーブルの上に置かれたパンを食べながら答えた。
エマという少女はキルの遊び友達のうちの1人だ。
それなりに良いところの娘なのだが、何処の子供とも分け隔てなく遊ぶ子らしく、出自どころか普段の感情さえはっきり見て取れないキルとも仲良くしてくれているらしい。
「……危ないことすんなよ」
特に意味は無いが釘は刺しておく。
キルは俺の言葉に素直に頷き、また牛乳に口をつけた。
例え、危ないことをしたってキルがいる以上なんの問題も無い。
相手が指名手配中の殺人鬼だろうが、ドラゴンだろうが問答無用で意図も容易く退けられるのだから当然だ。
それでも、なんとなく注意をしてしまうのは、すっかりキルに絆されているからだろうか。
その上で、だ。
それも悪くない、なんて思ってしまうのだからなんともしょうもない人間になったものだ、と我ながら思う。
内心に湧き上がる居心地の悪さから逃れたくて、俺は淹れていたコーヒーに口を付けて、新聞に目を落とした。
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