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「……あ~」
布団の上で喉の痛みにうなされる。
原因は何だろうか。
クラクラとする頭で何とか考えてみるが、原因は直ぐに思い付いた。
昨日。
結局、キルが帰ってきたのはヴェルニアが診察を終えて診療所に戻った後だった。
ヴェルニアが帰った後、何とかベッドから起き上がって処方された薬を無理やり胃に流し込んだ辺りで玄関から音がした。
キルが帰ってきたのだろう。
文句を言うついでに出迎えてやろうと玄関に向かうとそこに立っていたのはキルだった。
キルではあったが、おまけで眠ったままの少女三人を抱えていた。
玄関でキルのその姿を見た瞬間、喉まで待機させていた文句が一瞬で引っ込んだ。
代わりに出たのは「ひぇっ……」という情けない声だった。
その後は散々だった。
キルから事情を聴いてなんとか事情を飲み込んだ。
一昨日の連中の残党に襲われたこと、キルの友達も攫われかけていたこと、残党どもを深く眠らせてから攫われていた女の子たちを連れてきたこと、キルにはこれ以上どうしたらいいかわからないこと。
それらの事情を飲み込んだ上で、どんどん風邪が悪化していっている俺が動くしかないことを悟った。
ちょっとだけ泣いた。
泣いた後、覚悟を決めて暖かいコートを羽織り、キルを連れて外に出た。
まずは眠ったままの少女たちを親御さんの下に連れて行った。
キルの友達は何とか知っている相手だったのですぐであったが、残り二人は何人かの知り合いに聞いてやっとのことで親元に返せた。
親元に返す前にキルの魔法で少女たちの記憶を消しておくことを忘れない。
眠らされる直前に経験したであろう誘拐された記憶など覚えていない方がいい。
親御さんたちにはキルと遊んでいる最中に眠ってしまったので送り届けに来たことにした。
自分たちの子供が昼に帰ってこなかったので皆、心底心配していた。
次にギルドへ――行く前に昼食を摂ることにした。
正直、俺は風邪のせいで食欲がなかったし、キルも構造上食事を摂らなくても問題は無いので抜いてもいいのだが、昔からなんとなく特段の理由なくキルの食事を抜くのが好きではないのでギルド近くの大衆食堂に足を運んだ。
昼の忙しい時間を過ぎた食堂は閑散としていて、いつもなら埋まっている日当たりいい窓際の席も空いていたので、その席に着いた。
キルの食べる定食と自分用に胃に優しそうな粥を少な目で店員に注文した。
キルは終始落ち込んでいた。
おつかいが中途半端になってしまったことと体調の悪い俺を連れまわしていることに罪悪感を覚えているのだろう。
慰めてやりながら食事を摂った。
昼食の後、ギルドで残党の報告をした。
この時期にしては厚手のコートを羽織っている俺を見て顔見知りのギルド職員が軽口を言ってきたが、「家にこれしかなかった」なんていう適当な言葉で濁しながら手続きを進めた。
風邪を引いているから、という事実を伝えてしまうと隣に居るキルがやたらと気にしてしまうからだ。
ギルドの手続きはお役所仕事なので待ち時間も長く、体調が悪くフラフラの状態には辛いものがあったがなんとか耐えた。
少量とはいえ昼食を摂ったおかげかもしれない。
手続きを耐えきったのだが、結局報告だけで済むはずもなく現地調査が必要になってしまった。
なんせ俺が立ち会ったわけではないので報告が正確ではないし、キルもよくわかっていないので説明が足りなかったからだ。
残党たちを寝かせたままなので翌日にしてもらうわけにもいかず、ギルドからキルが残党たちを倒した現場まで行く羽目になった。
道中はギルドが馬車を出してくれたのだが、これがまた風邪っぴきには辛いもので、何度か吐き気に襲われつつもそれも耐えるしかなかった。
現地調査自体はすぐに終わった。
残党の証拠は本人たちが地面のそこかしこに倒れていたからだ。
ギルド職員が手早く彼らを拘束するのに立ち会って、それだけで終わりとなった。
30分程度のために30分以上馬車に揺られて辛い思いをしたのだが、当然帰りもあった。
現地調査を受けたうえでの手続きが残っているのでギルドへとんぼ返りとなった。
また30分以上辛い思いをすることになった。
ギルドから出た頃にはすっかり空が真っ黒に染まり、星が出ていた。
家に帰ってから料理する気力は一切残っていなかったので、這う這うの体で昼とは別の食堂で夕食を摂った。
キルがずっと落ち込んだままだったので豪華な食事を注文した。
なんせ金はつい先ほどギルドから支給されたので心配は無い。
なんとか引き出したキルの笑顔を見て、息を吐いてから俺は注文した粥を味も良くわからないまま啜った。
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