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「……この小娘にしてやられた」
ガタイの良い男の怒鳴り声にキルに照準を合わせたままハットの男は答え、後ろの惨状を指さした。
ガタイのいい男がちらりとハットの男の指した方を見た。
馬車と荷車が倒れた、事故現場のような光景がそこにあった。
ガタイのいい男はその状況に思わず目を見開き、唾を飲み込んだ。
それから今度はハットの男の銃口が向いているキルの方を見た。
そこにいるのは倒れている3人の少女を庇う様に立っている(様に見える)美しい幼気な一人の少女だった。
当のキルと目が合うが、ガタイのいい男はそれを気にも留めなかった。
「……おいおい先生、冗談いうなよ。アンタの失敗を着せるにしてもこれじゃいくら何でもキツイぜ?」
ガタイのいい男が半笑いで言ったが、「先生」と呼ばれたハットの男は一切表情を変えなかった。
ハットの男が冗談を言うタイプではないことをガタイのいい男も知っている。
ハットの男の表情が言葉に真実味を持たせていた。
考え直して、男は唾を飲み込んでキルの方をもう一度見た。
先程まではガタイのいい男を眺めているだけだったキルであったが、今度は男を指さしていた。
思わずギョ、とガタイのいい男はたじろいでしまいそうになり、更にキルが口を開いた。
「悪者だ……」
「……あ?」
ガタイいい男はキルの言葉をすぐに、誘拐犯として認識されたと解釈する。
が、違う。
キルが言葉を続けた。
「一昨日アジトに居なかった悪者のリーダーのおじさんだ」
一昨日、ドレが風邪を引いた原因である川に落ちた例の件。
あの時、キルが一瞬で壊滅させた自称盗賊団の中にリーダーの姿が無かった。
ギルドからの依頼が『アジトの壊滅』であったため、それほど気に留めることなくドレはギルドに成果報告を行っていた。
ギルドの方でリーダー探しをしていたようだが、ここ2日では見つけられないままであった。
そして、その当のリーダーがキルの目の前にいた。
顔自体はギルドの手配書にも写真が乗っていた。
キルは一度見たものを忘れない。
そのように出来ている。
見間違えるハズが無かった。
キルの指摘にガタイのいい男の顔から半笑いの表情が消えた。
盗賊団のアジトが壊滅したことは街の新聞でも取り上げられていたし、首謀者が逃亡中であることも書かれていた、しかし顔写真までは載っていなかった。
その情報をただの少女が知っているハズは無い。
男の頭の中にアジトから逃げてきていた部下の言葉が浮かぶ。
『頭ぁ!! 冴えない顔の全身ずぶ濡れの男と不気味な雰囲気の女のガキの二人組にアジトを破壊されちまいました!!』
戯言か保身のための適当な嘘だと思っていたが、目の前の少女がその二人組の片割れなら、なるほど本当のことだったのかもしれない。
もう消してしまった部下には悪いことしてしまったな、と思った。
「先生ぇ」
男の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。
「やれ」
短く発音されたその声にハットの男が即座に反応し、キルの後頭部を打ち抜くよう正確な射撃が放たれた。
パァン、と甲高い破裂音が辺りに響いた。
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