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トントン、という玄関のドアを叩く音が響いた。
半分以上が夢の世界の方に漂っていた意識が現実の方に浮上を始めた。
微睡みの感覚が薄れ意識の覚醒に伴って、今度は体の倦怠感と不快な酔いのようなものが思い出されてくる。
寝起きの回らない頭のせいかと思ったが、段々と自分が風邪で寝込んでいたことを思い出してきた。
そう、そうだ。
俺は風邪を引いて、寝こんでいたのだった。
覚醒が進む。
いつもならいるハズの同居人の気配が無い。
そういえばおつかいに出したのだった。
今は何時であろうか。
窓の外を眺める。
今日は天気がいい。
南向きのこの部屋には暖かい日光が差し込んでくれる。
冬の近づくこの季節にはありがたいことこの上ない。
太陽は窓から眺めてほぼ真正面にまで昇っている。
もう正午に近い時間らしい。
トントン、と玄関のドアを強めに叩く音が聞こえた。
あぁ、そういえば玄関を叩く音で目が覚めたのだった、という事を思いだす。
放っておいてもキルが対応してくれるだろうか、なんて考えたがすぐにキルが居ないことを思い出す。
おつかいに出したのだった。
どうにも頭の回転が鈍い、やはり熱のせいだろうか。
なんてベッドの上で考えているうちに今度はドンドン、という明確にドアを強く叩く音が聞こえた。
仕方なく、ベッドから立ち上がる。
居留守は昔からよく使うので慣れているので、無視しようかとも思ったが、キルがカギを忘れてドアを叩いている可能性が頭を過ぎったのでそういうわけにもいかなくなった。
部屋を出て玄関に向かう。
ドンドン、相変わらず強めのドアを叩く音が響いていた。
玄関に着き、ドアを開ける。
「はいはい、そんなに急かすな。今開けるか――」
どうにも、俺はやはり熱のせいで頭をやられているらしく、キルがカギを忘れていっていた場合、玄関にカギはかからないのでどちらにせよキルが玄関を叩くわけがない、という簡単な事実にまで頭が回っていなかった。
「――……は?」
「遅い。死んでいるのかと思ったぞ」
玄関を開けて、その先に居たのは当然キルではなく、白衣を纏った黒髪の目つきの鋭い女、キルにおつかいで向かわせた診療所の主――ヴェルニア・セラリタであった。
見間違いかと思って、目を擦ってみるがやはりそこには確かにヴェルニアが立っていた。
「……は?」
もう一度、今度はささやかな抗議の意味も込めて呟いてみたが、ヴェルニアは気も留めず半開きのままのドアから室内に入ってきた。
「ほれ、戻れ。あんまり玄関にいると風邪が悪化するぞ」
本格的に抗議してやろうかとも思ったが、視界がクラクラと揺れ始めたので仕方なくお医者様のありがたいお言葉を頂戴することにした。
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