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 様々な打算があった。

 キルを捨てれば恨まれるかもしれない。

 そうなればキルが殺しに来るかもしれない、ドレの抵抗など何の意味も無いだろう。

 いつかどこかでドレイク・エストという青年が『ハワード邸殲滅戦』の生き残りであることがバレるかもしれない。

 そうなったとして、キルという兵器を持っていなければドレは抵抗などできずに消されてしまうだろう。

 美しい芸術作品を手元に置いておきたい。

 きっとそれは人間の本能のようなもので、それが自分の物であればなおさらだ。

 強い武器を持ちたい。

 身を護るため、あらゆる災厄を我が身から振り払うため、人間は求めてしまう。



 ドレはキルと共に生活を始めた。

 キルを手元に残すこと、それだけがドレが生き残るための道だったから。


 「キル、食べ終わったか」

 「……うん」

 残っていた牛乳を勢いよく飲み干してキルは返事をした。

 「いい飲みっぷりだなぁ」

 「牛乳……美味しいから」

 他人にはわからないらしいがドレはキルの表情がわかる。

 嬉しそうだった。

 「俺ぁ、牛乳嫌いだからなー。その気持ちはわかんねぇな。酒の方がうまいぞ」

 「……お酒は……変な味がする」

 今度は嫌そうな顔をした。

 味を思い出したのだろう。

 ドレにはわかる表情の変化に笑ってしまった。

 笑うドレを見て、小首を傾げ、それからキルも微笑んだ。


 「さて、と。仕事に行くかぁ」

 「今日は何……?」

 「昨日、モンスターの大量発生が確認されたらしいし、たぶんギルドにその依頼が来てるだろうよ」

 「モンスター……倒す?」

 「おう、頼むぜぇ、神様仏様キル様」

 「おぉ。まかせろぉ……!」



 誤算があった。

 最初の1年、キルと共に旅しただけで情が湧いてしまった。

 それを愛着と呼ぶのか、愛情と呼ぶのかわからないままだが、気が付けば5年も経っていた。

 打算は、きっともうない。

 きっと、死ぬまでキルと共に旅をするのだろう。

 武器と所有者のような、絶対者と相対者のような、娘と父のような、妹と兄のような、または――。


 歪な、それでいて気の置けない相棒のような関係で。

 二人は旅をするのだろう。

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