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 最初はやった、と思った。

 人類でただ一人、ドレイク・エストだけが生き残ったおかげでエル・ハワードの遺産であるキルという少女を手に入れたからだ。

 他の人間はこの何もなくなってしまった大地に絶望だけを刻むだろう。

 勝者になった、と思った。


 すぐに間違いに気付いた。

 もし、世界にただ一つのエル・ハワードの遺産を持つ人間がいると知られたらどうなるか、想像に難くなかった。

 世界にとっては能力の高くないドレイク・エストなど、吹けば飛ぶ埃のような存在にすぎない。

 最初の高揚はやがて恐怖に取って代わった。

 ドレイクは自身が生存したということとキルという存在を誰にも告げず、自身を死んだことにして放浪を始めた。

 ドレイク・エストという名前も捨てた。

 それからはドレと名乗るようになった。

 もとより両親の顔など知らず、スラムで生まれ育った天涯孤独のドレイクをエストを探す人間などいなかった。


 それから、キルを手放そうと思っていた。

 何処かの国に置いていこう。

 エル・ハワードの遺産である見目麗しい少女が他人の手に渡ればどんな事をされるか想像は出来た。

 が、元々戦場跡でハイエナ稼業をしていたような人間だ、大した正義感など持ち合わせていない。

 そうしよう。

 そう、思っていた。


 そんな旅の道中、百人規模の野盗に襲われた。

 能力のないドレでは抵抗も出来ないような相手だった。

 このまま素直にキルを渡して、それでお終いだ。

 都合が良かった。

 ドレは抵抗するそぶりすら見せず、持っていた装備や食料、アイテム、そしてキルを素直に渡して命乞いをした。

 これだけ渡せば助かる算段だった。

 ウソ泣きもして見せていたが、腹の底では笑っていた。

 首筋に冷たい感触が触る、その瞬間までは。


 「は?」

 野盗はドレを殺すつもりだった。

 そもそも野盗どもにみすぼらしい男を助けてやる理由など一つもない。

 情けなく命乞いをするドレであったが、野盗はその無様な姿を嘲り笑うだけ。

 隙をついて逃げようとしたがすぐに阻まれ、捕まった。

 逃走を図ったドレに激怒した野盗は大して手入れもされていない剣を振り上げた。

 ドレが全てを諦めて、目をつぶった瞬間だった。

 瞼越しに強烈な閃光が見えた。

 音が無くなった。

 いつまでたっても痛みがやって来ない。

 ドレは恐る恐る目を開けた。


 月に照らされ輝くような、風になびく髪が見えた。

 いつもの虚ろな瞳がドレを映していた。

 キルの着ている簡素な白い衣服が血に染まっているのが見える。

 周囲にいた百人規模の野盗が残らず血に沈み、事切れていた。

 一面真っ赤な血の海の中、月明かり照らされ薄く微笑むキルは、まさに芸術的だった。

 「……ドレ……大丈夫?」


 薄々、気づいていた。

 あの爆発で、何故キルという少女が生き残ったのか。

 理由はきっとキルがエル・ハワードの最高傑作だったから。

 史上最悪の錬金術師エル・ハワードが作り出した最高の芸術作品にして、最強の兵器。

 それがキルという少女だった。


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