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「【生存者0名 史上最悪の錬金術師『エル・ハワード』との戦争『ハワード邸殲滅戦』から5年――そこに何があったのか】……ねぇ」
一面の見出し記事を読み上げたあと、青年――ドレは内容を読むこと無く、無造作に新聞をテーブルに投げた。
書かれているのはどうせ出鱈目ばかりだからだ。
ハワード邸殲滅戦の唯一の生存者であるドレ以外があの場を知るはずなどない。
史上最悪の錬金術師エル・ハワード。
非人道的、反社会的、非倫理的。
その限りを尽くしあらゆる実験や研究を行っていた人物であり、最悪の名を冠するに至るほどの大天才。
その技術力は確かに本物で、彼の研究や成果物は2世紀半先を往くとさえ謳われるほどであった。
彼の圧倒的な技術や研究を手に入れるために、人類は彼の悪逆を盾にして戦争を起こした。
それが、個人対連合軍という歪な形の戦争『ハワード邸殲滅戦』である。
数えきれないほどの戦力差を目の前にしてもエル・ハワードは一歩も引かず、彼の技術をもって迎え撃った。
戦況は人類連合軍が劣勢を強いられ続けたが、流石のエル・ハワードも孤立無援の状態では1週間もすれば数の力に押され始める。
エル・ハワードは自分が劣勢に陥る可能性を見るや否や自ら史上最大の爆発を起こした。
それは自身の研究や成果物を渡さないためだったのか、それとも別に目的でもあったのだろうか。
軽々と地形を変えたその爆発はエル・ハワード自身や邸宅、周囲を囲んでいた数万の兵を意図も容易く、一瞬のうちに消滅させた。
結局、人類はエル・ハワードのあらゆる遺産を手にすることが出来ないまま、戦争は終わってしまった。
今でも、ハワード邸跡地を探索しているようだが、何一つ発見は無い。
というのが、一般的なハワード邸殲滅戦の概要である。
が、実際には生き残りがいた。
生き残ったのは、当時傭兵という名のハイエナ稼業にいそしんでおり、ハワード邸殲滅戦にも参加したドレイク・エストという青年ただ一人。
ドレイクが生き残ったのは実力でもなんでもなく、ただただ偶然。
ハイエナ行為目的で、戦場そっちのけでハワード邸近くを探索していたときに、たまたまエル・ハワードの仕掛けていた罠のような機構に捕らえられた。
どのような技術が使われていたのかはわからないが、その機構がドレイクをあの大爆発から守った。
爆発後、機構が解除され解放されて地上に出たドレイクを待ち受けていたのは、焦げ臭さと人の焼けた臭いだけが支配する一面なにもない平原だったわけだ。
ひどい臭いの中、生存者やエル・ハワードの遺産が無いか探し歩いたが、何もなかった。
ただ、一つを除いて。
ドレがテーブルの対面に目を向けた。
少女が、朝食のサンドイッチと牛乳を飲んでいる姿が見えた。
のんびりと虚ろな目で食事をしているのだが、不思議とその姿も絵になる。
そんな不思議な美しさを持った少女。
『キル』と自らを名乗ったこの少女こそが最悪の錬金術師エル・ハワード唯一の遺産である。
ふと、食事をしていたキルの虚ろな目がドレと合った。
「……ドレは……食べない?」
手にサンドイッチを持ったまま、小首を傾げて鈴の音のような美しい声で問いかけた。
おそらく、普通の人間であればキルのそのしぐさだけで落とされてしまうだろう。
美人は罪だな。
しかし5年も一緒に居れば慣れるものだ。
「いつも言ってるだろう、俺は朝は食欲が無ぇんだよ」
そう言ってドレはカップに入れたコーヒーを飲む。
「キルはゆっくり食べてていいぞ。今日は急ぎじゃないからな」
「……うん」
こくん、と頷いてキルは食事を再開する。
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