ドレとキル

ひゃくま

第1話 キルとドレ

1

 活性化したマナの臭い。

 硝煙の臭い。

 あらゆるものが焦げた臭い。

 人間の焼けた臭い。


 戦場の痕は強烈な死の臭いがその場を支配していた。


 あまりにも悲惨な戦場だった。

 たくさんの味方がいともたやすく吹き飛んで、多くの生があったはずのその場に残ったのはただ死のみ。

 そのはずだった。


 目の前に少女が一人。

 虚ろな目と表情で生き残った青年を見つめていた。

 「……あなたは……だぁれ……?」

 静まり返った空間に鈴の音のような声が響く。

 まだ幼い、美しい少女だった。

 人間の姿をしてはいるが、きっと人間ならこんな完璧な美しさは手に入らないだろう、直感的にそうわかってしまう程に美しい少女だった。

 気が付けば青年は焼け焦げた地面に膝をついていた。

 育ちの良くない青年にその経験は無かったが、きっと崇高な芸術作品を目の前にした人間はこうするだろう。

 青年の目線が下がり、少女としっかりと目が合った。

 まだ何の色も無い無垢な瞳がじっと青年を見つめた。

 呼吸が、言葉が、喉にひっかかるのを感じながらも青年は言葉を絞りだす。

 「お嬢ちゃん、お名前は……?」

 青年の質問に少女は首を傾げてから、口を開いた。

 「……キルは、キルだよ?」


 凄惨な光景の中で出会った『最高の芸術作品』。

 少女――キルとの出会いが青年――ドレイク・エストの全てを壊してしまった。



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