第5話
優柔不断、甲斐性なし、何と言われようと俺は反省しない。
だが、メチャクチャ後悔はしてる。
ルナさんのお母様は、自身の信じるものを叫ぶ人の前に立ち、例のカプセルを一人ずつ手渡している。
「しっかりしてる人ですね」
「ええ、自慢の母親であることは確かよ」
その様子に俺は微笑ましさと、少しの嫉妬を覚えた。
「よっしゃ!!適合率63%だってよ!!」
「マジかよ!!俺なんて10%しかなかったぜ!!」
「雑魚じゃねーか!!」
大きな笑い声が聞こえる。
数字が低い人は確かに落胆しているが、それでも互いに励まし合っている様子が目に入る。
「みんな嬉しそうですね」
「そうね。ここではそういうのがモットーだから」
似てるようで、やっぱり向こうとは違うんだな。
「お前が例の新人か?」
すると近くで声がする。
「こんにちは、バルドさん」
「お!!これはルナ様じゃないですか。あんたみたいな大物がどうしてここに?」
「少し彼と話したくて」
「ああ!!なるほどなるほど」
バルドさんと呼ばれた人は俺の肩を掴み、耳元で
「もしかしてルナ様のこれかい?」
そう言って小指を回す。
「いやいや、俺なんかじゃ恐れ多いですよ」
「なんだよ、つまん」
「ただ」
俺はニヤリと笑い
「高嶺の花は落とすもんですよ」
「は!!」
バシンと背中を叩かれる。
「イッ!!!!!!」
「いいな!!新人。名前はなんて言うんだ」
「えっと、陸って言います」
「中身も外も弱っちいが、芯がある。体や態度がデカイ奴よりは役に立つだろ」
そう言って、ルナさんの元に行く。
「ルナ様、さすがにあんたとコイツじゃ同じ戦場に立っちまったら死んじまう。まずは俺のところに置いてくれませんか?」
「確かにそうね。残念だけど、陸のこと頼んだわ」
「うっす」
そう言って大きな体を前に倒す。
見上げていた目線が同じ高さになる。
「聞いたか新人。お前は俺のいる部隊に入ってもらう。異論ねぇな?」
「俺ルナさんとがいいです!!」
「!!!!」
「ハッハッハ!!威勢がいいのは結構だが、雑魚のくせに調子のんな。死ぬ気で鍛えろ。理想は自分で掴め」
この人色々乱雑だけど、どこか頼り甲斐があるな。
「俺、やっていけますか?」
「自分に自信がないなら仲間に頼れ。仲間が出来ないことはお前がやれ。俺らは向こうに比べて学がねぇ連中ばっかだ。だがな」
バルドさんは心臓を指し
「仲間意識だけは負けてねぇ。それだけは絶対だ」
震えた
「いいか。ここの連中は大抵何かやらかしてる。例えば俺なんか昔は盗みを働いてた。どうだ?失望したか?」
「いいえ」
心からの答えだった。
世間の評価は彼は悪なのだろう。
でも、俺はそこに理由があると思った。
「即答か」
バルドさんは軽く俺の肩を叩き
「俺のチームについてはまた今度教えてやる。今は一時の休息と思って全力で楽しめ」
そう言ってバルドさんはどこからか酒を取り出し同期らしき人達と飲み始めた。
「どうだった?」
「嵐のような人でしたね」
「ええ。でも、悪い人じゃないわ」
「喋れば分かります」
「そう」
パーティーのように馬鹿騒ぎしている人々。
ここにいる人は俺なんかとは違い、一人一人が何かしらの過去を持っている。
それは生きるため、守るため、きっと一生心に抱えるようなものを持っている。
それでもこうして笑ってるのは
「この組織のおかげなんでしょうね」
「フフ、そう言われると頑張ってきた甲斐があるかしら?」
ルナさんはどこか誇らしげだった。
「ところで一つ聞きたいことがあるんですが」
「何?」
もう手遅れではあるが
「この会社ってルナさんのお母様のものなんですか?」
「ああ」
納得したように
「いいえ。ここはただの有名企業よ。ただ、お金を出せば私達みたいに世間に秘密にしている組織でも舞台を貸してくれるわ。それに、客の情報は一切吐かないから私達も愛用させてもらってるわ」
「な、なるほど」
つまり
正義の味方と悪の組織が同じ場所でダブルブッキングしちゃったってことか。
酷い偶然もあったものだ。
今、上と下には敵対する組織が仲良く新人歓迎をしているようなものだからな。
「無知とはなんて恐ろしいんだ」
ちなみに一番の被害者は紛れもなく俺である。
「受付の人、分かってたなあれ」
今にして思えば、あの笑みは俺のことをバカにしていたのかもしれない。
「そろそろ終わりね」
ルナさんは携帯で時間を確認し、呟いた。
「あ、あの、ルナさん!!」
「何?」
俺は携帯を取り出し
「連絡先、交換しませんか?」
セイラさんの時とは違い、自分から切り出すのは緊張する。
「ええ、もちろん」
ルナさんは小さく笑った。
夜
セイラさんやルナさんに組織の詳細について聞いた。
それらから、今の俺の現状をお教えしよう。
まず知っての通り、俺は絶賛二股……二つの敵対戦力に所属している。
この時点で全然アウトだが、さらに問題がある。
まずは戦闘だ。
正義の味方サイドはカレンさんに強制参加させられた。
そして悪の組織側でも、よくよく考えれば戦闘に参加させられることになっている。
ちなみに悪の組織側にも同じく技術班や司令班はあるらしい。
バルドさんの気前が良すぎて気付かなかった自分を恨む。
さらに問題はこれだけじゃない。
どちらか、もしくは両方を辞めればいい話。
だけど、俺はメチャクチャ恥ずかしい台詞を連発し、二人から離れるという選択を取れない弱い精神力。
そもそも、こんなことを考える前に秘密保持のため、一度入ってしまえばどちらも一生この仕事に携わる以外の選択が途絶えるらしい。
つまり現状
「詰んだ」
逃げられない。
俺は今後、正義の味方と悪の組織を続ける必要がある。
「バレないようにしよう」
ここで俺の最大の目標ができる。
「まさに墓まで持っていくやつだな」
俺はこの爆弾を抱え、誰にもバレることなく墓に埋まる。
「やったー、生まれて初めて目標ができたよー」
一粒の涙が俺の頬を通った。
次の日
「それでは部隊を編成する!!」
カレンさんの声が響く。
「部隊は基本的に適合率によって決められる。だが稀に、生まれつき飛び抜けた戦闘センスを持つものがいる。そういう化け物を見つけるため、今回の部隊はあくまで仮と思ってくれ」
多分、セイラさんはかなりの実力者だ。
皆が口々に話す時、セイラさんのことを『閃光』と呼んでいた。
やはり正義の味方と言われてるように、かなり王道的な二つ名(厨二)である。
話を戻そう。
つまり適合率がド普通である俺は、セイラさんと同じ部隊になれる確率は著しく低い。
ましてや、先程の化け物に俺が該当する確率はもっと低いだろう。
となれば
「さよならセイラさん。俺は遠くからあなたの活躍を見守っています」
だが、神はどうやら俺を裏切らなかったようで
「これが各部隊の隊長達だ。覚えておけ」
四人の人が現れる。
その中の一人にセイラさんがいる。
「あ、ウインクしてくれた」
自惚れでなければ、おそらく俺に対するものだと思う。
「二番隊と六番隊の隊長は只今任務中でここにはいないが、事前に意見を聞いている。一応覚えておけ」
二番隊隊長と六番隊隊長か。
どんな人だろ?
こういうパターンだと、片方が無法者で、もう片方が裏切り者とか多いよな。
「それでは選抜を開始するが、その前に各隊長は一人だけ、欲しい人材を指名できる」
「え!!」
ということはもしかして
セイラさんに目を向ける。
彼女も知らなかったのか、驚いた顔をした後、目が合う。
そしてセイラさんはニッコリと微笑み
「それでは一番隊隊長、セイラ。一人選べ」
「はい!!じゃあ陸くーー」
「その前に、海途陸」
「え?あ、はい!!」
「お前は既に三番隊への編隊が決まってる。よかったな」
ふぇ?
「お母ーーカレンさん!!どういうこと!!」
セイラさんが声を上げる。
「ふむ、海途はどっかのバカのせいで実力以上に評価される可能性が危惧されている。そのため、私の最も信頼できる三番隊隊長の元で訓練させることにした」
事前に反抗されることを予期していたのか、スラスラと言葉を述べるカレンさん。
「ぐぬぬぬぬ」
セイラさんは分かりやすく不満さを表す。
しかし、原因は自分のためか引き下がる。
「それでは海途隊員、速やかに前へ」
「あ!!はい!!」
俺は皆が見てる前で舞台に上がる。
そして三番隊隊長の前に立つ。
「よ、よろしくお願いします」
「ごめんなさい、カレン様はいつも突然ですから」
優しそうな人だ。
だけどこの声、どこかで聞いたことあるような……あ!!
「カレンさんを叱ってたひ——」
「なんていいました?」
「何でもないです!!」
すぐにわかった。
この人に逆らったらダメだと。
でも
「……」
美人さんだな。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。お名前をお聞きしても?」
「もちろんです。私の名前は西園可奈といいます」
「あ、ご丁寧に。俺の名前は——」
「安心して下さい。海途君は有名ですから」
「そ、そうですか」
有名なのって嬉しいはずなのに、ここでは凄くキツい。
てか悪の組織だとバレないようにするには極力目立ちたくない!!
フリとかじゃないからね!!
それから各隊長が一人、候補者を決める。
「竜崎さん」
セイラさんは竜崎さんを選んだ。
「彼は凄いですよ。適合率88%、隊長クラスです」
「ほぇ、凄いですね」
「適合率は1%違うだけでかなりの差が出ますからね。覚えておくといいですよ」
「勉強になります」
俺はまだこの力、組織のことを知らなすぎる。
「頑張らないと」
俺が生き残るため、それと
「ちなみにお給料ってどれほどですか?」
「活躍度にもよりますけど、まぁ大体」
「!!!!」
やっぱり頑張ろうと思う。
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