第3話

「それでは、陸様にはこれから光の力の適性度を調べさせてもらいます」


 建物の前で出会った出来る女さんだ。


「あのー、多分これから長い付き合いになると思うので、お名前をお伺いしても?」

「失礼しました。私の名前はネアとこちらでは名乗っています」

「あちらでは?」

「ネアちゃんです」

「可愛いですね」

「それではまずはこれを」


 渡された謎の粉。


「草じゃなくて粉だったか」

「これは光の力を覚醒させるものです。基本的に人類のおよそ0.01%が適合し、その中でも使える力には優劣があります」

「ほえ〜」


 0.01%って凄い確率だな。


「え?俺って適合するんですか?」

「どうでしょうか」


 凄い組織と思ったけど、もしかして思ったより適当なのかな?


「安心して下さい。陸様は異例中の異例。これまでの彼女に推薦された人間は貴方様だけです」

「わぁ凄い。ちなみに俺が選ばれた理由って?」

「それは本人にお聞きして下さい」


 すると、部屋のカーテンの向こうから


「じゃじゃーん」


 可愛らしい掛け声と共に登場するセイラさん。


「すみませんでした!!」


 そして流れるように頭を下げる。


「ど、どうしてセイラさんが謝るんですか!!」

「まさかここまで大事になるとは思ってもおらず!!」


 セイラさんの言い分は


 俺の境遇に同情し、性格も合って仲良くなれそうだから一緒に働きたいと思った。皆には部外者に話すなと言われたが、何だかんだ許してくれると思ったら、自分の想定していたより大事になったそうだ。


「だって秘密って言われてたけど、そこまで他言無用って思ってもいなくて……」


 おちょこ口でしょんぼりしているセイラさんはどこか愛らしかった。


「大丈夫ですよ、セイラさん」

「陸君?」

「最初は俺も驚きましたが、こんな非日常、男ならみんな憧れちゃいます。こんな機会をくれたセイラさんやあの子には、何とお礼を言ったらいいか」

「陸くぅ〜ん」


 セイラさんの目頭に涙がたまる。


 確かに驚きはしてるし、今も俺には合わない世界と分かっているが、それでもセイラさんの顔を見るとなんだかワクワクしている自分に気付いた。


 まぁ結局のところ


「これに適合出来るかどうかで決まるんですけどね」

「え?どうして光の力?陸君は技術班か司令班になるとばかり」

「あー、なんかカレンさんに無理矢理って感じで」

「お母さん!!」


 一気にセイラさんの顔が赤くなる。


「お、お母さん。私について何か話してた?」


 恐る恐る聞かれる。


「そうですね、セイラさんの冗談がうつったとか、俺を推薦してくれた時の様子などについて語っていましたね。とても素敵なお母様ですね」

「はぅあ」


 セイラさんは悲劇のヒロインのように倒れ込む。


「ごめんなさい陸君。戦闘班で陸君と同じになれたのは嬉しいけど、どうやら私はもう生きていけないみたい。最後にお母さんを倒してくるよ」

「返り討ちにあわないで下さいね」

「セイラ様、陸様の適合率は見ていかれないのですか?」

「え!!見る見る!!どうなるかなぁ」


 さっきの悲しそうな様子は吹き飛び、今はただ目の前の好奇心に従うセイラさん。


 相変わらず喜怒哀楽の激しい人だ。


「そもそも適合出来るんでしょうか?」

「大丈夫大丈夫。大体は正義感の強い人、もしくはその逆の人にかなりの確率で適合するから」

「それが本当なら犯罪者などに使われるのでは?」

「だから私達が管理してる……って私もこの前聞いたばっかなんだけどね。にゃはは」

「そ、そうですか」


 俺は手の中にあるカプセルをもう一度見る。


「あ、水ってあったりします?」

「どうぞ」


 事前に準備していたのか、ネアさんがさらりと差し出す。


「もしこれが大掛かりな詐欺だとしたら、俺はそれも本望です」

「大丈夫だから!!」


 苦笑いでセイラさんがツッコミを入れてくれる。


 少しだけ、心が軽くなる。


「いきます」


 ゴクリ


 冷たい水が喉元を通り、俺は小さく声を漏らす。


 うーん、やっぱり適正なんてなかったのだろうか?


 変化は特に感じな——


「ガッ!!!!!!!!!!!!!」


 パリン


「陸君!!」

「ゴホっ!!!!アッッッッ!!ガッッッ!!」


 胸から何かが溢れ出て来る。


 熱い!!


 何だこれ!!


 「陸君!!大丈夫!!陸君!!」


 セイラさんの声がドンドン遠くなる。


 まずい……もう……意識……が……









 ポチャン


「どこだここ?」


 ポチャン


 この音は……水滴?


 俺はさっきまで部屋にいたはずじゃ


「これは……泉?」


 暗闇から目を開けると、大きな泉があった。


 そこに上から光る水が垂れ落ちている。


 周りは岩に囲まれて、どこかの洞窟の中にいるような感覚に陥る。


「綺麗だな」


 滴る水滴が泉に落ち、光り輝く。


 波立つ様子は自然と心を穏やかにしてくれる。


 でも


「どうしてだろう」


 違和感


 というよりも


「違う」


 こんなものは


「間違っている」










「陸君大丈夫?」

「え?あ、はい」


 目を開けると、そこには少し涙を浮かべるセイラさんと心配そうなネアさんがいた。


「痛みなどはありませんか?」

「えっと、特に問題ないですね」


 先程の湧き上がる何かも消えている。


「このような症状は初めてですね。やはりこの力にはまだ謎が多い」


 一瞬静けさが走る。


「あ!!そうだ陸君。見て見て」


 空気を書き換えるようにセイラさんが声を上げる。


 その指差す方を見ると


「50?」

「はい、適合率50%です」

「適合したんですか!!」


 まさか俺が0.01%に選ばれるなんて!!


「でもまぁ」

「なんと言いますか」


 セイラさんとネアさんの言葉が詰まる。


「ショボイ……ですか?」

「いやー」

「そういうわけではー」


 更に言葉に詰まった後


「普通……かな?」

「そ、そうですか」


 俺的には適合しただけでも凄いことだ。


 むしろ普通なんて期待以上だ。


「よかった。これでセイラさんと一緒班に入れましたね」

「陸君!!なんていい子!!」


 セイラさんはわざとらしく泣き真似をする。


「改めてですが、これからよろしくお願いします。セイラさん」

「私のせいで迷惑掛けちゃったけど、これから私なりにカバーするから。よろしくね、陸君」


 熱い握手を交わす。


「手汗とか大丈夫ですか?」

「ちょっと凄いかな?」


 顔まで熱くなった。










 部屋から出ると、入った時と同じような状況。


「ふむ、最後が来たな」


 あれ?


 もしかして俺ってかなり長い時間気を失ってた?


「これにて試験を終了とする。まぁ試験といってもそれぞれの適合率を見るだけなんだがな」


 カレンさんが豪快に笑う。


 ここに集められた時点で俺以外は合格が確定していたのか。


「それでは明日、もう一度ここに集合し各班の部隊を決定する。詳細も明日説明しよう。以上、解散だ」


 カレンさんの合図と共に人々が散っていく。


「お母さん!!」

「お!!セイラじゃないか」

「ちょっと来て!!」


 カレンさんが退場した奥からそんな声が響いた。


「ん?」


 すると俺の周りに人が集まってきている気がする。


 いや、集まってる。


「初めまして」

「あ、初めまして」


 一人の男が話かけて来る。


「ええっと、竜崎さんでしたっけ?」

「ああ。竜崎でいいよ」

「そ、そうですか」


 イケメンが笑顔で手を差しだしてきたので、握手する。


 多分この人コミュ強だ。


「確か名前は陸だっけ?」


 いきなり呼び捨てかよ!!


 いいけどね!!


「あ、はい、そうです」

「あのセイラ様に推薦されたんだろ?凄いな」

「いやー、セイラさんも勘違いしたようでして、俺がいるのも奇跡みたいなもんですよ」

「そうですよ」


 急に便乗してくる声。


「その声は!!」

「そう、僕こと三沢です」

「誰だ!!」


 知らない人だった。


「ま、まさか三沢グループを知らないと?」

「俺あんまりテレビ見ないので」

「ま、まぁいいだろう」


 三沢はゴホンと咳払いし


「話は聞いたよ。お前、どうやら適合率が50%らしいじゃないですか」

「そうですけど……何か問題が?」

「大有りも大有りですよ。お前のせいでセイラさんの名誉に傷がつくんです」

「確かにそれは問題ですが、それよりもあなたの咬ませ感の方がまずいですよ」

「咬ませ犬とは実力ある者を引き立てる者のことでしょう?僕は確かな実力がある。少なくともお前の咬ませになる覚えはないね」

「凄い!!正論感がより雑魚さを際立たせる」

「ムッキー!!僕は適合率60%だぞ!!」


 喋れば喋るほど何故か拭いきれなくなる三沢さん。


「まぁまぁ落ち着いて、俺たちはもう仲間だ。蹴落とし合うんじゃなく、高めあう。喧嘩より先にすることがあるんじゃないか?」


 仲裁に入ってくれた竜崎が拳を前に出す。


「頑張ろうぜ」


 なんか、凄い人だな


「よろしくお願いします」


 拳を合わせる。


「フン!!」


 三沢は出口の扉に歩いていく。


「ふられちゃったかな?」

「ああいう人は途中でデレるか退場するので気にしなくていいですよ」

「いや、やっぱり仲良くいこう。そっちの方が楽しいしな」

「はあ」


 竜崎さんは凄くいい人だと分かった。


 こういう人こそここは相応しいんだと改めて気付かされる。


「あ!!」


 そういえばルナさんに合格したことを伝えないと。


「ごめん竜崎さん。俺も行く場所があるから」

「そうか?それじゃあまた明日な」


 俺は元気に扉を開けた。


 






「見つからないな」


 周りの人に聞いてもルナさんのことを誰も知らない。


「あんまり有名じゃないのか?」


 だけどあれだけ綺麗だと否が応でも目立つと思うんだけど……


「あ、受付の人」


 入場する時の受付のお姉さん。


「すみません、ルナさんって名前の可愛い女の子を知りませんか?」

「なるほど」


 歪に笑う。


「もちろん知っております。ルナ様はあちらでお待ちです」

「あちら?」


 手の向く方には地下への階段。


「さすが、大きな会社だと地下もあるんですね」

「お客様の願いに出来るだけお応えするためです」


 素晴らしいサービス精神だ。


 俺も見習わないと。


「ありがとうございます。それではまた」

「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ。陸様」


 俺はそのまま地下への階段を降りる。


 だがすぐに


「あら?」

「あ!!」


 暗闇に紛れ、光で際立つ美しい銀髪。


「ルナさん!!探しました!!」

「そう?誘われたと聞いていたから既に会場にいるかと思ってたわ」

「あれ?会場にいたんですか?」

「ええ。今日はずっといたわ」

「あ、すみません。気付きませんでした」

「しょうがないわ、だって今から試験が始まるもの」

「え?」


 始まる?


「俺はもう終わ——」

「しー、始まるわ」


 暗闇の中から、闇よりも黒い衣装を付けた女性が現れる。


「やぁ、みんな」


 一瞬で背筋が凍る。


「今日は来てくれてありがとう。とても感謝しているよ」


 ゆっくり、故にどこか華がある喋り方。


「私は前置きが長いのは昔から苦手でね」


 黒と対するような真っ白な両手を広げ


「ようこそ、悪の組織へ。私は君達を歓迎しないよ」

「は?」


 そして運命の歯車は回り出した。

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