第2話

 あれから数日経った。


 ラ◯ンで突然


『死ぬ程怒られたけど、陸君応募できるって!!』


 とセイラさんから連絡が来た。


 どうやらここで働くには何かの条件を達成した人が選ばれ、そこから更に面接という形で決定されるらしい。


 今回の俺は、特別にセイラさんに推薦される形でその条件を無視することになったわけだ。


 本当に彼女には頭が上がらない。


「面接か」


 毎度この時は緊張するんだよな。


「ルナさんにも伝えたいけど、連絡先交換しなかったからな」


 多分向こうに行けば会えると思うけど、その前に今の状況を伝えておきたいな。


「いや待てよ?むしろ合格してから驚かす方がいいか?」


 ルナさんのあの時驚いた顔をもう一度見て見たくなった。


「よし!!絶対に合格してやる!!」




 数日後




「ここがセイラさんの言ってた場所か」


 見上げる


「高ぁ」


 そこは都内でも有名な大手の本社。


「まさかここで?」


 こんな大企業が俺みたいな奴を雇うか?


 ……うん、あり得ないな。


「多分間違えたんだな。多分……いや絶対そうに違いない」


 俺はクルリと反転し、目的地に背を向けた。


「突然すみません」

「へ?」


 それと同時に背後から声が掛けられる。


 そこにはいかにも出来る女と言ったお姉さんがいた。


「お名前をお聞きしても?」

「え?えっと、陸って言いますけど」

「やはり」


 矢張り?


 静かに待ってろってこと?


「ようこそお越し下さいました。話は既に通っておりますので」

「俺側に話が通ってませんけど?」

「それは中でご説明致します」


 そのまま背中を押される形で、どデカい建物に吸い込まれていく。


「広い……ですね」

「ここが会場です」


 厳重な警備。


 肩幅が俺の二倍はありそうな大男達が列を組んで並んでいる。


「あなたがあの海途陸様ですか。お会いできて光栄です」


 受付のお姉さんが丁寧に頭を下げる。


 あのって何?


 俺の知らぬ場所で俺って有名人になってたの?


「それでは奥に」


 なされるがままにどこかに連れて行かれる。


 完全に置いてけぼりだ。


「それでは試験、頑張って下さい」

「あ、ありがとうございます」


 建物の前で出会った女性が応援してくれる。


 そして扉が開かれると


「デスゲームでも始まるのかな?」


 ギラついた目をした男女問わず数十人の人。


「まずいな。多分これあれだ」


 世界観違うやつだ。


 明らかな場違い感を覚えつつ、部屋の隅っこに待機する。


 すると辺りの電気が消え、中央のステージに光が注がれる。


 まるでライブイベントかのようだ。


「やぁ諸君。こんにちは」


 現れたのは金髪の女性。


 雰囲気がセイラさんに似ている気がする。


「ここに集められた人間は他でもない。総勢数千人の中から、我々が厳選に厳選を重ね選ばれたエリート達だ」


 周りから一斉に拍手が飛び交う。


 そんな中でエリートどころか落ちこぼれの俺は、ただただ萎縮してしまう。


「……」

「あれ?」


 一瞬、舞台の女性と目が合う。


「ふ〜ん」


 ヤバ〜イ。


 なんかこれ主人公によくある、「コイツ、出来るな!!」みたいな感じだけど、俺絶対偽物だよ?


 友情努力勝利を投げ出した人生しかしてこなかった人間だよ?


 嫌な予感がドンドン増していき、俺は空気と同化する術を編み出すことに専念する。


「自己紹介が遅れたね。私の名前は朝日奈カレン。名前くらい聞いたことがあるかな?」


 周りがざわつく。


 有名人なのだろうが?


 どうしよう全然知らないや。


 というか朝日奈ってことは、やっぱりセイラさんのお母さんか。


「それではこれから諸君には殺し合いをしてもらう」

「やはり!!」


 周りがざわつく中、今回は逆に俺は落ち着いていた。


 予想通りの展開。


 よく分からない展開よりも、こういう話の方が分かりやすくていい。


「でもやっぱ死にたくねぇ!!」


 俺は部屋から逃げるべく走り出そうそうとすると


「すまない、冗談だ」


 ステージのカレンさんはガハハと豪快に笑う。


 ちなみに周りで笑ってる人は一人もいなかった。


「いやいや、最近娘に影響されたのかこういったジョークが多くなってしまう」


 皆がほっと胸を撫で下ろす。


 俺も同じ気持ちだが


「え?結局ここ何なの?」

「それでは改めて説明しよう」


 部屋の明かりと彼女に向かって差していたスポットライトが消え、大きなスクリーンが現れる。


 まるで大企業のプレゼンかのようだ。


「現在我々は、超常的な力を扱う術を持っている」


 どうしよう。


 宗教団体に来ちゃったかも。


 やはりセイラさんは美人局だったか。


「それらは二つの種類があり、我々が所持しているのは光の力」


 カレンさんが手に何もないのに光が灯る。


 何かのトリックかと疑うが、多分違うなこれ。


 まるで証拠とばかりに


「諸君、光が物を壊すところを見たことあるかな?」


 そう言い、光は野球ボールのような速さで壁に激突し


「すげー」


 木っ端微塵に破壊した。


 周りからも感嘆の声が聞こえる。


「どうだ」


 カレンさんもドヤ顔だ。


「ちょっとカレン様!!物を壊さないでといつも言ってるでしょ!!」

「す、すまん!!」


 壊れた壁の奥から怒鳴り声がし、先程まで自信満々だったカレンさんが一気に小さくなる。


「は、話を続けよう」


 完全に話題を逸らす。


 俺の中であの人の評価が威厳ある人から、少しお茶目な人へと変わった。


「先程見せたように、あの力は私達の理を大きく外れる無限の力が内包されている。そして、その力を極めることこそが君達をここへと呼んだ理由だ」


 そしてスクリーンは次のページ進む。


「何故この力を極める必要があるのか、その理由は様々存在する。治安維持であったり、環境問題であったりを解決することも当然だが、最大の理由はコイツらだ」


 そこには黒い何かの物体があった。


 先程みた光とどこか似ている気がした。


「これは光の力と相対する力、闇の力によって生み出されたものだ」


 そして映像が流れる。


「なんだ……これ……」


 そこには人間とは思えない速度で動き、攻撃し、異能な力で戦う白と黒の姿。


 アクション映画でも見ているかのような光景に唖然としている俺に説明が入る。


「このように、我々は闇の力を使う奴らと敵対している」


 正直俺は話についていけていなかった。


 光?闇?なんだそれ。


 俺は普通の学生で、こんな漫画の世界に飛び込んだ記憶ないぞ?


 完全に俺の立つべき舞台ではない。


 それは誰よりも俺が分かっていることだ。


 だけど……


「質問があります」


 隣からの声にハッと目を覚ます。


「何故闇の力を使用する者達と敵対しているのでしょう」

「ふむ、いい質問だ。君、名前は?」

「竜崎と申します」

「覚えておこう。とか言ったらカッコいいかな?」

「ふざけてないで質問に答えて下さい」


 壁の向こうからまた怒鳴り声。


「敵対している理由だったか。話すと長くなるんだが、簡単に言えば内部分裂だ」

「内部分裂?」


 竜崎という男は首を傾げる。


「元々向こうの組織、我々は分かりやすいように悪の組織と呼称している。闇の力って悪者っぽいからな。そして、我々と向こう側は元々同じ組織だった。この不思議な力を研究し、世界をよりよくしようといってな」


 カレンさんは少し悲しそうに


「そこで、私と彼女の間で衝突が起こってしまった」


 その後、カレンさんから語られた内容を要約すると


 互いに平和を目指していたはずが、カレンさんは保守派、向こう側はリベラル派(過激派みたいなもん)となり、意見が対立した。


 互いに互いの正義があり、譲れないものがあったのだ。


「その結果、あちらとこちらで争いが生まれた」


 場は静寂に包まれる。


 どう反応すれば良いのか、どう向き合えばいいのか分からない、そんな空気感である。


 誰もがカレンさんの言葉に思考を巡らせる中


「質問があります」


 静寂を破り、堂々と手を上げる男。


「ほう、君は……うむ。質問を許そう」


 そう、俺である。


「ありがとうございます」


 俺は呼吸を整え


「今でもカレンさんは自身の選択を正しいと思っていますか?」

「いい男じゃないか」


 周りが過去一騒めく。


 そりゃあ今の俺の発言は、言ってしまえば『お前の考えは本当に合ってるのかよ』と問うものであるからだ。


 敵対行動……なんて雄々しい言葉をつける程ではないが、少なくとも失礼であることに変わりない。


 だが


「難しいな」


 カレンさんは上を向く。


「私は自分の考えが間違ってるとは思わない。だが、アイツの考えが間違ってるとも思えない」


 それはどこか後悔があるように感じた。


「しかし、選択されるものが一つであるならば私は自身と、私を支えてくれる皆の意思を貫く。それはあの時も今も変わらんことだ」


 本当の正義はないのかもしれない。


 それでも、カレンさんの瞳の奥にある熱は本物だった。


「こんな答えで満足か?」


 カレンさんは寂しげに笑う。


「ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げた。


 敬意を払い、心の底からの感謝を伝えるために。


「さぁ暗い話はここまでだ。ここからは選抜試験となる。それぞれ希望する場所に行ってくれ」


 そこには三つの道が示されていた。


 左から


『戦闘班』、『技術班』、『司令班』


「戦闘班は文字通り悪の組織と戦闘をしてもらう。怪我もつきものだ。選ぶなら覚悟は決めた方がいい」


 なるほど、ここは無しだな。


「次に技術班。ここは光の力の研究を進めてもらう場所だ。基本インテル系の天才どもが犇《ひしめ》きあっている。自身こそ非凡であると誇る者は技術班を選べ」


 なるほど、俺は馬鹿だ。ここは無しだな。


「次に司令班。ここは常に悪の組織の出現場所を確認し、即座に連絡、戦闘の分析をしてもらう。我慢強さと観察力のある者は選んでみるといいかもな」


 なるほど、三日坊主のプロと言われ、空気読み大会の盲目と呼ばれる俺だ。ここは無しだな


「すみません」


 二度目の挙手。


「ん?どうした」

「帰りたいんですけ」


 バン


 後方から扉が開かれる。


 入り口にいた大男達が流れ込んでくる。


「悪いな、ここで聞いたことは本来秘匿されてるんだ」

「はい先生。なら気軽に話さないで下さい」

「おや?私の知る限りだと、この場にいる者はある程度話を聞いた者だけだと思っていたんだがな」


 するとカレンさんは悪役も震え上がらせる邪悪な笑みを浮かべた。


「あぁそういえば、事情を知らない者がい一人いたな。確か」


 カレンさんわざとらしく思い出すフリをし


「私の娘の推薦者が一人」


 瞬間、周りの目が一斉に俺に降り注ぐ。


 を、予期していた俺はボディーガードに紛れ込む。


 だが


「あれが……」

「セイラ様に推薦されたという」

「チッ」


 ガタイで秒でバレる。


「すみません。俺に今度筋トレ教えて下さい」

「お、おう」


 隣の大男に筋トレの教えを乞うことにし、俺は諦めて前に出る。


「雑魚、下っ端、ちり紙、お好きなようにお呼び下さい。性は海途、名は陸と申します。以後お見知り置きを」


 俺はとりあえず下手に出ることにした。


 おそらくセイラさんはビックネーム。


 彼女は優しさで俺をここに導いてくれたが、俺の無能っぷりでセイラさんの顔に泥を塗るわけにはいかない。


「確かに俺はセイラさんに推薦されましたが、毎日のように土下座し、靴を舐めることでどうにかその権利を獲得したものです。本当に彼女の寛大さには感謝してもしたりません」


 わざと大声で叫ぶ。


 これでセイラさんは泣く泣く俺という雑魚を推薦してくれた、心優しい人となってくれるはず。


 実際に彼女は優しいのだから、この嘘は問題にならないだろう。


「あのセイラ様と毎日会ってるのか……」


 後ろの大男が小さく声を上げる。


 なんか失敗の予感がするな。


「嘘です。数日前に始めて出会い、電話越しに何度もお願いしました。直接会ったのは一度だけです」

「な!!セイラ様の連絡先を!!」


 参加者の一人が声を上げる。


「全部嘘です。本当は」

「アッハッハッハ」


 カレンさんが大声で笑う。


「いやはや、最初セイラが君のことを強く押すもんだから、何故部外者に喋ったのかと叱ったが確かにこの男ならあの子の言ってることが分かるな」


 フワリと浮き上がり、カレンさんが俺の前に着地する。


 今のは完全に物理じゃ説明出来ないな。


「非常に見所がある。君はカレンと同じ戦闘班に入れ」

「嫌です無理です不可能です!!」

「いい返事だ。手続きしろ!!コイツは戦闘班だ。ビシバシ鍛えてやれ!!」

「は!!」


 大男数名が俺に近付いて来る。


「例の部屋で適性を確かめてこい」

「離せ!!どうせ俺にイタズラする気でしょ!!薄い本みたいに!!」


 力で勝てるはずもなく、俺はズリズリと奥の部屋に連れて行かれるのであった。

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