26話 あれがデネブアルタイルベガ

「話は戻りますが渚帆さんにクイズです」

「なになに?」

「もうすぐバイトの時間だからな?」


 フードコートでバイトの時間までお喋りを楽しんでいましたが、椛さんのいう通り流石にそろそろ時間切れです。

 ですが、最後に一つだけ話題にしたいことがあります。


 だって今日は87なのですから。




「パンダといえば何を連想しますか?」

「はい! なぎそーいうの得意だよ!」

「ここは幼稚園か?」


 可愛い園児と可愛げのない園児が居ますね。


「かわいい!」

「…………ですが」

「白黒」

「違います」


 はい! と再び渚帆さんが手を挙げます。


「ユーカリがすき!」

「……そうですね。生存競争に負け毒性のあるユーカリを食べるようになったのがコアラですが、同じく生存競争に負け笹の葉を食べるようになったのはパンダです。流石渚帆さん正解です」

「あたしが園児だったら泣いてるぞ」


 椛さんは幼い時から気が強そうなイメージがありますが、もしかして泣き虫だったのでしょうか? 

 もし椛さんのご両親に会う機会があったら聞いてみましょう。




「笹の葉といえば更に連想することはありますか?」

「ええとね、うんとね、あのぉ……川に…」

「あたしわかったわ。だろ」


 渚帆さんが可愛らしく頭を抱えている間に、椛さんがしてやったり顔で答えました。


「……お答え頂く際は挙手をお願いします」

「はい!」


 前のめりぎみに大きく手を挙げる渚帆さん。


「七夕です!」

「正解です!」

「……小さい頃にこういう目にあうと性格歪んだりするんだぞ」






「もうそんな時期か」

「ほっかいどーは7月7日じゃないもんね!」

「その通りです」


 七夕は7月7日とされるのが一般的。

 ですが、ここ北海道では1ヶ月遅れの本日、8月7日を七夕としています。

 道内でも根室や函館は7月7日だったりするそうですが。


 この1ヶ月のずれは新暦と旧暦によるものなのですが……まぁ、そこはそんなに面白い話でもないのでいいでしょう。


 それよりも北海道ではその昔、七夕に独自の風習があったそうです。

 ローソクもらいというイベントです。

 子どもたちが「ローソクだせ」「ローソク一本ちょうだい」と歌いながら家々を回り、お菓子やローソクを貰うんだそうです。

 現代でいうハロウィンみたいなモノなのでしょうか? 


 私は見たこともやったこともありませんが、今でも一部の地域で行われているのかもしれません。






「そういえば一階のちょっと広い休憩スペースに飾ってあったな。七夕の笹飾りが」

「え! お願いごと書きにいかないと!」

「今日アルバイトが終わったら行ってみましょうか」


 バイト後の楽しみができましたね……そろそろ例の議題に移りましょうか。






「椛さん私と勝負しましょう」

「また唐突な……勝負ってなんのだよ」

「痛いのはだめだよ?」


 痛い目に合う人が出るかは渚帆さん次第ですよ?


「どっちが渚帆さんという名の織姫に、彦星として選ばれるかの争いです」

「もうめんどくさい気がしている」

「なぎが織姫さんなの?」


 私はルールを簡潔に話し始めます。


「ご存知の通り織姫と彦星は一年に一度、七夕の夜にしか会えません。もし同じように一年に一度しか会えないとしたら、私と椛さんどちらに会いたいかを渚帆さんに決めてもらいます」

「……なるほど。どうやってなぎに決めさせるんだ?」


 めんどくさがっていた割には意外と乗り気ですね。


「今から二人で渚帆さんにアピールし会いたい方を決めてもらいます」

「せ、せきにんじゅーだいだね! がんばるよ!」




 それでは……


「ベガ争奪戦スタートです!」






「私に会ってくださればおやき食べ放題です!」

「あたしならスイカ食べ放題だぞ」

「……もみじちゃんに1ポイント!」


 うぬぬ。やりますね。


「お祭りの屋台でお好きなだけかたぬきをやらせてあげます!」

「じゃああたしは好きなだけわたあめを買ってやる」

「……もみじちゃんに1ポイント!」


 そんな……ま、まだです!


「お好きな水着を選んで差し上げるのはどうですか!?」

「浴衣はどうだ? なぎ」

「……こはるこちゃんともみじちゃん両方に1ポイント!」


 ぐぬぬぬ。差が縮まりません。




「3ポイントと1ポイント……これは勝負あったかな? ニセ彦星さんよぉ」

「いいえ! 私はまだ戦えます!」


 憎たらしい彦星も居たものですね!


「えぇと、なんとか挽回のアピールをしなければ……」

「10、9、8、7」


 私を急かすかのようになぜかカウントダウンを始める椛さん。


 そんな時でした——。






「なぎほんとーは織姫なんていやなんだ」


 渚帆さんはいつもの愛らしい人懐っこさを感じさせるお顔とは違って、憂いを帯びた大人っぽい表情で言いました。


「あ、あの、彦星の方がよかったですか?」


 ううん。と渚帆さんは少し下を向いてゆっくり首を振ります。


「彦星もいや。だって——」











「だってなぎは毎日ふたりと会いたいんだもん」


 いつもの可愛らしい満面の笑顔の中には、一雫の寂しさとちょっぴり恥ずかしさを孕んでいるように見えました。


 …………今夜星を見に行きましょう。


 おもち







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