27話 ちいさくて白くてふわふわな人気者

「「「300個!?」」」




 14時50分。

 そろそろ、バイト2日目最終日のシフトも迫って来ている時刻。

 私達3人は休憩室でそろそろ着替えようかというところです。


 テーブルの上にある、昨日から私の相棒である頭頂部が赤い例のあの子の頭が、こちらを見ています。


 そんな中、唐突に鶴子さんから告げられた数字に、私たちは思わず声を揃えて叫びました。


「なんだよ300個て! 昨日はそんなノルマなかったじゃねーか!」

「そうですよ! 横暴です!」

「そうだ! おーぼうだよ!」


 詰め寄る私達に、鶴子さんはやれやれといった表情で、口を開きました。


「はぁ〜、おいおいお前らよく考えてみろよ? 今日のシフト何時間だっけ?」




 鶴子さんの質問を素直に答えようとする渚帆さん。


 考える時、人は何故上を向いてしまうのでしょうか……

 そんなことより今は、上を向く渚帆さんを下から覗き込まねば。


「えーと、えーと、3時からけっこー夜おそくまでだから」


 偉い! 大体覚えてますね!

 では、私が正確なお時間を——


「22時までな、それぐらい流石に覚えとけよ、なぎ」

「へっへー、別にいいんだもん、だってもみじちゃんが代わりにおぼえててくれてたもん」

「ったく……ちなみに22時が何時かはわかるよな」

「え! あー、んー…………10時! 10時だよ! なぎちゃん!」

「おー、安心したよ、あたしは」

「ふふん。舐めてもらってはこまるよ、なぎもう、16歳のおねえさんだからね」

「まぁ、今どき小学生どころか幼稚園児でもわかると思うが」




 ちょっと!! 私を置いてけぼりにして会話するのはやめてください。

 可哀想でしょ! 泣きますよ!


「こほん。15時から22時までのシフトで計7時間、休憩時間は間に45分ですので約6時間の中で300個のティッシュを配るとなると1分に1個ティッシュを配れば時間が余るくらいなので案外現実的かも知れませんね」

「急にめちゃくちゃ喋り出すじゃん、オタクか?」

「オタクではありません」

「こはるこちゃんはおたくじゃなくておもちだよ?」


 渚帆さんの優しいフォローを全身に浴びつつ、既に私達の話は聞いておらずスマホをタプタプしている鶴子さんに向き直ります。




「ん? あぁ。流石こはるちゃんだ、その通り」

「こはるではなく私は小春子です」

「まぁ、とにかくそういうことだから、3人共今日もよろしく頼むぜ……あ、それと今日なんだけどさ」


 鶴子さんは形のいいお尻をテーブルに腰掛けながら口を開きます。


「お前らは1階担当で、2階に別のバイト3人きてっから、しかも確かお前らと同じまっこーの1年だぞ、友達じゃねーのか?」


 なるほど。

 確かに私達だけではお客さんみんなに配るのは難しいでしょうし、他のバイトの方々が居ても不思議じゃありませんね……競い合う分けでもないですし、これは好都合かもしれません。




「え! だれだれ? なぎ同じ学年ならみんなおなまえ知ってるしおともだちだよ!」

「流石コミュ力お馬鹿だな、あたしは同じクラスのやつですら怪しいのに」

「私は流石に同じクラスの方々は覚えてはいますが……お話したことない方もおります」

「もみじちゃん、なぎ、こみゅ力おばかじゃなくてオバケがいいな」

「じゃあそれでいいよ」

「鶴子さん、その方々のお名前わかりますか?」


 お名前を聞けば同じクラスなら勿論、他のクラスでもわかるかもしれませんね。

 なぎさんみたいなお化けなら毎晩枕元に立ってほしいです。

 むしろ枕になってほしい。




「名前? 名前なー、私名前覚えんのそんな得意じゃねんだよなー、んー、なんだっけな……見た目ならなんとなく覚えてんだけど」


 鶴子さんは両手の人差し指をこめかみに当てながら目を閉じて思いだそうとしています。


「なんか1人は目つき鋭くてあんま喋らない子だったな、髪は長めで寝起きみたいに跳ねてたわ、んで背が私くらい高い、もう1人も背同じくらいなんだけど、これが美形で整いまくってんのよ顔が、あれはきっと学校でモテまくりだろうな、僕っ子だったのもポイントたけぇ」


 鶴子さんと同じ背丈となると限られてきますね、少なくとも170cm以上ということですからね。


「えー、誰だろう? なぎと同じくらいの身長で目つきかっこいい子とイケメンさん? んー、なんかわかるきがするんだけど……」

「そうですね、なぎさんだけが頼りです、椛さんでは当てになりませんから、やれやれ」

「お前もだろうが……で、3人目はどんなやつなんだ?」


 椛さんは同じ群れの仲間の他の鹿を見るような目で私を一瞥すると、鶴子さんに問いました。

 つぶらな瞳で可愛らしいということではないですからね。そこ勘違いしませんように。






「いやそれがさ、なのよ」

「「「え?」」」


 シマエナガ。


 ここ10年程で一気に北海道内で知名度と人気が広がったエナガという鳥の一種です。


 雀よりも小さく、冬の時期の雪のように白く羽毛に覆われた姿は本当に愛らしく、今や道内全域のお土産屋さんや道の駅などには、キーホルダーなどの各種グッズやお菓子が沢山置いてあります。


 某SNSにシマエナガ公式アカウントがあるので是非覗いてそのお姿をお確かめください。


 ちなみにここ釧路では春採公園という場所で見ることが出来ます。




「あー、なんかちっさい鳥か」

「シマエナガさんに失礼ですよ小さな人間さん、というか3人目の方がシマエナガとはどういうことですか?」

「おいこら、お前今なんつったよ、シマエナガ口に詰めるぞ」


 お餅みたいですし意外とありでしょうか? ……というかそろそろシフトの時間ですよね? シマエナガもいいですが、昨日に引き続きそろそろタンチョウ鶴の着ぐるみを着ぐるまなければ。


「美味しいですよね、シマエナガ」


 私は椛さんの脅し文句に丁寧に対応をしつつ、テーブルの上の相棒の頭に手を伸ばします。











「なぎシマエナガさん大好きなんだぁ~! 鳥さんで好き!!!!」


「一番……ですって?」


 おもち























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