23話② 小さな子にはお菓子をあげよ

 お昼を挟んで後半戦。

 私達は再びフードコート前でポケットティッシュを配っています。

 ちなみにお昼ご飯は、鶴子さんがマクドナル道をご馳走して下さいました。


 フードコートにみんなで座って食べていたのですが、その際私が、首から下を着ぐるみのままで食べようとしたら、渚帆さんに怒られてしまったお話は……まぁいいでしょう。






「おねがいしまーす! ガラポンくじやってるよー!」

「おねしゃーす」

「ぷぉー!」ぱたぱた


 午後も元気に配ります(渚帆さんと椛さんが)

 午前中から薄々思ってはいたのですが、私これ喋らなくてもいいというメリット(?)と引き換えに、とても暑いのと腕がもうキツくなっています。

 明日もう一日あるのである程度セーブして動かないと、明日の私が羽ばたけませんね。




「え! くれるの? ありがとー! だいじにするね!」


 相も変わらず小さな子どもにモテ続けている渚帆さん。

 今も折り紙で作られた可愛らしい鶴を貰っています。

 ……同じ鶴なら私の方が強いですけどね?




 ばすっ。ぼすっ。ぽすっ。

「ぷぉ!」


 突然後ろから小さな衝撃が走りました。


「うわ! しゃべったぞこいつ!」

「いがいとやわらかいぞ!」

「にげろー!」


 後ろを振り返ると小学校低学年くらいでしょうか?

 男の子が3人笑いながら逃げていきます。


 ……渚帆さんの力を借りずとも私の人気度も上がってきましたね。ふふふ。

 あら。遠くから写真を撮っている女子中学生の姿もありますね。

 仕様がないですね。美しいポーズでも決めますか。


「ぷぉーぷ」


 私はフィギュアスケートの選手がフィニッシュの際に決めるようなポーズをしました。

 ん? なぜだか笑われているような……気のせいですね。あれは笑顔です。






 そして私と渚帆さんとは対照的な層に人気を博している椛さん。


「え? あ、ありがとうございます」


 今もお買い物終わりでフードコートに一休みしにきたのでしょうか?

 お年寄りのお客様達からお煎餅やら飴やらを頂いて困惑しています。


「まだ小さいのに偉いわねぇ。お姉ちゃんのお手伝いかしらね」

「違います。同級生です」

「私の孫もねぇ。来年中学生なんだけど良い子でねぇ」

「あたしは高校生です」

「あ! そういえば……幸子ちゃんが水羊羹作ってきてたのよ。幸子ちゃーん! まだ水羊羹余ってたかしらねぇ」

「聞いちゃいねぇな」


 ティッシュを配るはずが、それ以上にお年寄りから施しを受ける椛さん。

 小さな子はみんなお孫さんに見えて可愛がってしまうのでしょうか?




 椛さんは両手いっぱいにお菓子を抱えて困惑していたのですが、突然何か思いついたような顔をして、こちらを一瞥しました。


 あのニヤついた意地の悪いお顔は……






「こんにちわー! 夏のガラポンくじやってます! 詳しくはこちらをどうぞー!」

「おねがいしゃーす」


 あれからまたしばらく私達はティッシュを配り続けています。

 椛さんに不審な動きは見受けられません。私の杞憂だったのでしょうか?


 渚帆さんが時折コソコソと頂いたお菓子をつまんでいる意外に特出したことも起きていませんし。

 あ! お口の周りにお煎餅が付いています! この鶴のクチバシで何とか……




「あら。偉いわねぇ。お姉ちゃんの口の周り拭いてあげてぇ」


 私が渚帆さんの口元にクチバシを近づけようとしていたところ、椛さんがポケットティッシュで口元を拭いてあげていました。


「ありがとぉ。もみじちゃん!」

「仲の良い姉妹ねぇ」

「ほんとねぇ」


 お年寄りのお客様達に姉妹とまた勘違いされていますね。

 やれやれ。また椛さんの鋭いツッコミが——






「もー! ? お仕事中におせんべ付けてちゃだめだよ?」


 ツッコムどころか乗っかってませんか!?


「どどどどどどどどうしたのもみじちゃん!? きもちわるいよ!」


 怯える渚帆さん。


「どうしたのお姉ちゃん? いつも通りだよあたし!」


 きゅるんっと気持ちお目目をくりくりさせてぶりっこしている椛さん。

 暑さで壊れてしまったのでしょうか? 


「……あたし達いつも仲良しなのー!」


 椛さんは一瞬こちらを見たかと思うと、渚帆さんにすぐさま抱きつきました。


 あーなるほど。渚帆さんとので私を動揺させようとしているわけですね……確かに渚帆さんの妹になれるのは羨ましいですが、なんというかそれよりも…………




「おばあちゃん達、あたしとお姉ちゃんのお写真撮って!」

「あらあら」

「うふふ」

「そっちのお鶴さんも入って入って!」

「はーい。撮るわよぉ。帰ったら孫達にも見せてあげないと」

「このもみじちゃんこわい! だれか治してぇ!」


 羨ましいよりも怖いと心配が勝ってしまいます。

 私は着ぐるみの中で恐怖と心配が入り混じった顔をしながら姉妹に囲まれています。

 怯える姉。真ん中で微動だにしない鶴。壊れた妹。


「ちーず!」


 椛さんは目元に片手ピースを持ってくるようなポーズを決めながら、お年寄り達に写真を撮られています。

 恥ずかしくないんですか?


 お年寄り達は満足したのかその場を去っていきました。




「……おつるちゃーん!」


 渚帆さんは椛さんから逃れるように私の後ろに隠れます。


「がるるるるるるる」


 私の影から顔を出して椛さんを威嚇する渚帆さん。


 さっきまでとは一転気まずそうな椛さん。


「な、なんだよお前ら。ちょっとしたサービスだろ。お年寄りの夢を壊さない為の」

「そ、そうだったの? こはるこちゃんもこわかったよね?」

「ぷぉ〜」


 私は鶴語で渚帆さんに気持ちを伝えます。


「ほら! こはるこちゃんもとってもこわかったって言ってるよ!」

「なんだよ! そこの鶴がもっと動揺すると思ってやったのに!」

「ぷぉぷぉ」

「……どーよーはしてたみたいだよ!」

「そういうんじゃない!」


 椛さんはもうやめやめ。と仕切り直そうと顔をパンパン叩きました。


「よし。残り今日はちょっとだし頑張るぞ」

「そ、そうだね…………あ!!」

「ぷ!?」


 残りも頑張ろうと気持ちを入れ替えようとした渚帆さんでしたが、顔面蒼白とまではいかずとも、少し青い顔をして口元を押さえました。


「ど、どうしました! まだやっぱり気持ち悪いですか?」

「どういう意味だこら」


 思わず久しぶりに人語を発する私。


「なんか見覚えあるなーって思ってたんだけど、さっきのお年寄り……」


 口元を押さえたままゆっくり顔を上げる渚帆さん。


「クラスの子のおばあちゃん達かもしれない」


 おもち





























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