22話③ 季節外れのクリスマスツリー

「それではそろそろ行きましょうか」

「いこー!」

「あたしとなぎも着るもんあるぞ」


 椛さんと渚帆さんとのおたわむれも一通り満足したので、そろそろポケットティッシュ配りのアルバイトの為、所定の位置に行こうかというところ。

 椛さんが引き止めます。




「小春子はタンチョウ鶴だが、あたしらはそれを着るぞ」

「え! なぎたちもの?」

「なに? きぐるむ?」

「そういえばテーブルの端っこにずっと置いてありましたね」


 椛さんはテーブルの端に置いてある、2着のティッシュ配り用に用意された衣装を指差して言いました。


 着ぐるむ。


 渚帆さんから生まれた新しい日本語です。この釧路という土地から世間一般に浸透させていきましょう。

 (例文)私は着ぐるみを着ぐるんだ友達の中に一緒に入りたい。






「じゃーん!」

「でっかいな……あたしブカブカなんだけど」

「なるほど。夏らしいよそおいですね」




 袖口を手で掴みながら片足を上げて、膝下まで伸びてしまいスカートのようになってしまっている、真っ赤なを眺めて渋い顔をしている椛さん。

 明らかにサイズが合っていませんが可愛らしいですね…………い、一般的に見てですが。


 両手を腰に当てて、むふーと得意げな顔で同じく真っ赤な法被に身を包んでいる渚帆さん。これまたサイズが合っていませんね。

 都合よく(?)ショートデニムを履いてらっしゃいますので、法被の下から、長く伸びる綺麗な御御おみ足が惜しげもなく晒されています。

 大根抜きをしたら一番に抜かれることでしょう。


 大根抜き。

 北海道に昔から広く伝わるローカルな遊びです。

 壁を背に一列に並んで座ってみんなで腕を組み、別の人が足を引っ張って引き抜くという遊びです。

 小学生の頃はやっていましたが大きくなるとやらなくなってしまいますね……久しぶりにやりたいです。勿論抜く方で。




「はちまきとかも巻いちゃう?」

「いいよそこまでは……恥ずいし」

「私は全身着ぐるみなんですけど?」


 恥ずかしがるのは私のような格好になってからにしてほしいですね!

 ですが考え様によっては、上から下まで全て隠れているので誰かにバレるようなこともないですね。

 クラスの方々に見られでもしたら写真を撮られて晒し者コースですし。






「じゃあ、そろそろ行くかー。剣淵さんに怒られんのも嫌だし」

「いっぱいポケティくばるぞー!」

「そうですね。頑張ってくば——」


 …………ん? 配る? ティッシュを? …………こので?

 このペンギンみたいなフォルムの腕で私どうやってポケットティッシュ配る気だったんですか? 


 私の脳内には、お揃いの法被を着てティッシュを配るお二人の間で、パタパタ翼を振ることしかできない、滑稽なタンチョウ鶴の映像が再生されました。

 これではまるで……






「…………です」


 私は前を歩く椛さんと渚帆さんに聞こえるか聞こえないかの声量で呟きます。


「なんか言ったか?」

「どうしたの? こはるこちゃん?」


 お揃いの法被を着ているお二人が振り返りました。


「今日の私は鶴ではなくパンダだっだようです」


 ティッシュも配ることのできない私はただの客寄せパンダにしかなれません。






「よく見てください! この手を!」ぱたぱた


「「あっ……」」


 お二人も今気づいたのか、気まずそうな顔をしています。


「で、でもこうすればくばれるかも?」」


 渚帆さんはポケットティッシュを、私の大きくてモフモフしているだけの手に乗せました。


「ほら! いけそうだよ! こはるこちゃん!」

「おぉ……ふっ、いいじゃん」


 必死に私を慰めようとする渚帆さん……と横でフォローしているようで楽しんでいるようにも見える椛さん。

 私の必殺技、タンチョウラリアットの出番ですか?






「……ティッシュも満足に配れませんしお二人みたいにお揃いの法被も着られませんし夏は暑いしもう私帰った方がいいでしょうか?」


 もうこのまま着ぐるみは頂いて帰りましょう。渚帆さんのお家に。

 そのまま渚帆さんの部屋の抱き枕になります。




「別に配れなくたってそれ着てりゃあ、子どもとか集まってくるし役には立てるだろ」

「たしかに! こはるこちゃん人気者になれるよ!」

「だって私渚帆さんみたいに小さい子の相手が上手なわけでもありませんし……」

「じゃあもう手のとこだけ切り落として腕出すとか?」


 確かにそれなら配ることができるかも!?


「みんなの夢をこわしちゃうからだめだよ!」

「夢壊すつったって、サンタじゃあるまいし……」


 渚帆さんの正論パンチ。

 ではどうすれば役に立つことができるでしょうか……




「あ!!! なぎすんごいこと思いついちゃったかも! このほーほーなら立ってるだけでティッシュを配れるよ!」

「……この際だ。一応聞こうか」

「是非聞かせてください」










「おぉー! やっと来たかてめぇら! そろそろ営業じ——」


 私達はティッシュを本日配る場所として指定された位置に足を運びました。

 まさかのいつものフードコート前です。


「お、お前その姿はなんだ?」


 鶴子さんは私達の姿を捉えて慄いています。

 主に私の姿を見て。


「つるちゃんさん! これがなぎたちの作戦!」

「名付けて!」






「「タンチョウ大作戦!」


 私は全身にポケットティッシュくっ付けた状態になっています。

 素晴らしいアイディアでしょう? これなら立ってるだけで沢山の人にティッシュをお渡しできるはずです。


 クリスマスツリー×タンチョウ鶴=タンチョウツリーです。




「……椛ちゃんこれ止められなかったの?」

「……止められませんでした」


 おもち








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