22話① おへそは有料です
「そんじゃぁ、着替えたら出てこいよー」
「「「はーい」」」
パタン。
鶴子さんはそれだけ言い残すと、早々に扉を閉めて出ていきました。
8月6日(土)
朝の遅い渚帆さんにはまだ早い時間帯です。
まだおねむの時間でちゅねー(母性)
私達は、ホームのフードコートがあるいつものAE〇Nに、開店時間の9時より早く中に入れて頂き休憩室に通されていました。
「ほら。お前は早くそれ着ろよ」
「わかってますよ!」
「わくわく」
椛さんは少しニヤニヤしながら、テーブルに横たわるタンチョウ鶴の着ぐるみを指差して言います。
「遂にこの日が来ましたか」
私はタンチョウ鶴の頭部を一度撫でて呟きました。
私達3人は今日と明日、2日間に渡って短期アルバイトをします。
ここAE◯Nで、本日から行われるという夏のガラポンくじの宣伝のためにティッシュを配るのです。
そして、私に撫でられているこの子が私の相棒……というか私自身かもしれません。
「さてっと……」
「「……」」
私が着ぐるみを着ようと動きだすと、お二人がこちらを無言で見ていました。
「な、なんですか? あんまり見られると……」
「気にしないでくれ」
「つづきをどうぞ!」
まじまじと見つめられながら着替えるというのは流石に恥ずかしいというか……気にし始めると更に恥ずかしくなってきてしまいます。
とっとと着替えてしまいましょう。
私は履いていたスカートに手を掛けま—
「え?」
「え?」
椛さんのえ? に反応して私も同じように返してしまいました。
「なんの、え? ですか? 椛さん」
「だってお前……着ぐるみの中入るのに、その…………服脱いで入る気か?」
「そんなわけないでしょう!」
ずるっ!
私は勢いよくスカートを脱いで、下に着ていた学校指定のハーフパンツを見せつけてやります。
「ほら! 下はジャージで上はTシャツで着ぐるみに入りますよ! もう!」
ついでに上に着ていた服も捲って、Tシャツも見せつけてやります。
「あ、ああ、そうだよな……びっくりしたわ。なぎじゃあるまいしそこまでアホじゃなかったか…………後、へそ見えてんぞ」
「え?」
今度は渚帆さんから、え? が聞こえてきました。
椛さんがアホとか言うからですよ! 渚帆さんは決してアホではありません。ちょっと天然なだけです。天然記念物です。北海道の。
それと勝手にへそを見ないで下さい。お金取りますよ。
「もみじちゃん……」
「いや、あの、今のは言葉のあやというか……」
「椛さん。早く謝って下さいな」
椛さんが謝ろうとしたその時——
「着ぐるみの中ってはだかんぼだと思ってたよ……」
渚帆さんが着れるサイズの着ぐるみがないことが本当に悔やまれます。今から発注できないでしょうか?
もしかして渚帆さん、今の時代でも浴衣の下は何も着けないと思ってる口では…………これは知識を正しておいた方が良さそうですね……来年。
おもち
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